ベルギー・アントワープ。この小さな街がファッション界の注目を浴びるようになったのは、80年代後半から90年代初めに突如出現したマルタン・マルジェラと「アントワープの6人」と呼ばれたデザイナー達の台頭によってであった。あれから20数年、現実性と創造性の間のユニークなバランス感覚を持つアントワープ・ファッションは、鮮烈な印象を刻み、時代をリードし続けてきた。そのアントワープ・ファッションの軌跡をたどる展覧会が、現在、東京オペラシティアートギャラリーで開催されている。それまでファッションの伝統を持たなかったアントワープが、ファッション界に確固とした地位を築くまでに至った秘密は一体何だったのか?
Report:日比野紗希
この展覧会は、3つのカテゴリーで構成されている。まず1つ目のカテゴリーが「アントワープ王立美術アカデミーファッション学科」。会場を訪れた瞬間目に飛び込むのは、独創的なフォルムの鮮やかな赤のドレスだ。これらの作品は、すべてアントワープ王立美術アカデミーの学生によるもの。アントワープのデザイナーのほとんどがこのアカデミーで学び、その創造性、オリジナリティ、革新性を磨く。どこか抑制されながらも、背後にストーリーを感じさせるドレスたち。未来のトップデザイナーの誕生が待ち遠しい。



(左上)Jinseng Lee ファッション学科1年(2008),(右上)Karisia paponi ファッション学科3年(2008),(左下)Ken Kurombez ファッション学科1年(2008),(右下)Emilie Pierlot ファッション学科4年 修了制作(2008)
第2のカテゴリー「アントワープ・シックスとメゾンマルタンマルジェラ」。80年代後半、彗星のごとく現れた「アントワープの6人」(ダーク・ビッケンバーグ、アン・ドゥムルメステール、ドリス・ヴァン・ノッテン、ダーク・ヴァン・サーヌ、ワルター・ヴァン・ベイレンドンク、マリナ・イェー)とマルタン・マルジェラ。既成概念を壊し、実験的なアプローチでモード界を席巻した彼らのデザインは、思わずため息がこぼれてしまう程美しい。
installation view,Tokyo Opera City Art Gallery, 2009


(左上)Ann Demeulemeester,Autumn-Winter 2003-2004、(右上)Dirk Bikkembergs, Spring-Summer 1997、(左下)Walter Van Beirendonck/W.&L.T.,Spring-Summer 2007、(右下)Maison martin Mariela, Autumn-Winter 2008-2009脱構築的なデザインに定評があり、着ると更に美しいシルエットを実感できるアン・ドゥムルメステールのジャケット。鮮やかなグリーンのジャケットに自身の名前がデザインされているダーク・ビッケンバーグのコレクション。カジュアルだがエレガントさを兼ね備えた力強さが漂っている。現在、アントワープ王立美術アカデミーで学科長を務めるワルター・ヴァン・ベイレンドンクのドレスはカラフルでポップな色合いが目を引く。右下は、ストイックさとコンセプチュアルな世界観が特徴的なマルタン・マルジェラのドレス。
第3のカテゴリー「新世代のデザイナーたち」。ラフ・シモンズ、 A.Fヴァンデボォースト、ヴェロニク・ブランキーノ、ブルーノ・ピータース、ハイダー・アッカーマン、ベルンハント・ウィルヘルム、クリス・ヴァン・アッシュ
といったアントワープ・ファッションの第二波を生み出す新世代の活躍はめざましい。ビッグメゾンのクリエイティブ・ディレクター(「Dior Homme」のクリス・ヴァン・アッシュ、「Hugo」のブルーノ・ピータースなど)として成功を収めるなど、その美学はファッション関係者のみならず、世界中の人々を魅了し続けている。



(左上)Bernhard Willhelm,Autumn-Winter 1999-2000、(右上)Veronique Branquinho,Autumn-Winter 2000-2001、(左下)A.F.Vandevorst, Spring-Summer 2001、(右下)Peter Pilotto,Autumn-Winter 2006-2007個性的なフォルムとカラフルな色合いが特徴のベルンハント・ウィルヘルムのデザイン。ビッグシルエットの帽子とシックなドレンスのバランスが絶妙。複雑な女性の内面性を表現するディテールが高い評価を得ているヴェロニク・ブランキーノのコレクション。 A.Fヴァンデボォーストのコレクションは女性らしさを強調するドレープライン、革のコルセットが目を引く。2008年春夏からロンドンファッションウィークにデビューしたブランドピーター・ピロットのグリーンのコートは光沢のある軽やかな素材と流れるような裾の動きが美しい。
近年、国内外で活躍する若手日本人デザイナーにも、アントワープ王立美術アカデミー出身者が多い。国際色豊かなアカデミーの環境、文化の衝突こそが世界中のデザイナー達のアイデンティティを一層強固なものにするのかもしれない。既存のモードを覆す新しい創造性からますます目が離せない。

Exhibition Information
『6+ アントワープ・ファッション展』
Sep 11 2009-Jun 28 2009 atTokyo Opra City Art Gallery












