『時効警察』『亀は意外と速く泳ぐ』『転々』など、独自の”三木ワールド”を展開し、新作を発表するごとに注目度を高めてきた三木聡。そんな彼の最新作『インスタント沼』は、従来の持ち味を活かしつつも、その世界観をさらに先へと押し進めた最高傑作とも言える出来に仕上がっている。
Text:原田優輝
例によって、タイトルからはまったく内容が予測できない三木監督の最新作は、麻生久美子演じる沈丁花ハナメが、様々なトラブルに巻き込まれながらも、ドロ沼のような”ジリ貧OL”人生から脱却していく物語だ。
担当雑誌が休刊となり、出版社を辞めることとなったハナメ。好きな男にもフラれ、人生をやり直そうと身辺の整理をしている最中、偶然にも行方不明の父親について書かれた手紙を発見する。そこに記された事実を確認するため、手紙を頼りに父親を訪ねるハナメだが、そこにいた男は”電球”と名乗る奇人じみた骨董屋「電球商会」の店主。
あまりにもうさん臭いその男を実の父と認めたくないハナメだが、様々なやり取りを経て、次第にふたりの距離は縮まっていく。そして、”電球”の「困った時には水道の蛇口をひねればいい」という奇妙なアドバイスをきっかけに、ハナメの平凡な人生は転調を迎え、加瀬亮演じるパンクロッカー”ガス”を巻き込み、驚愕のラストへと突き進む。
小ネタが随所に散りばめられたナンセンスな”三木ワールド”の中を、ハナメは大声で叫び、走り続ける。やがて、”目にしたものしか信じなかった”彼女を直撃する、”信じ難い目前の出来事”—。その過程のなかでハナメ(と観客)は、嘘と意地で固められた日常をサバイブするためのヒントを獲得していく。
“脱力系”とも称される三木作品だが、その裏には”何も起こらない日常”に向けられた彼の鋭い観察眼がある。大局を笑い飛ばしつつ、細部にささやかな”抵抗”を潜ませる三木聡は、エンターテインメントとインディペンデントの二極化が進む日本映画界に、新たな風を送り込む。
『インスタント沼』は、5/23よりテアトル新宿、渋谷HUMAXシネマほか全国ロードショー。
三木聡監督のインタビューはこちらから。

Information
『インスタント沼』
監督・脚本:三木聡
出演:麻生久美子、風間杜夫、加瀬亮、松坂慶子ほか
配給:アンプラグド、角川映画
2009 / 日本 / 120分
(c)「インスタント沼」フィルムパートナーズ












