“自殺願望がある死刑囚”チャン・ジン(チャン・チェン)の自殺未遂報道を知り、彼に共感のようなものを感じるヨン(チア)。夫の浮気が発覚した彼女にとっては、夫婦生活は監獄のようなものでしかない。死刑執行まで生きる苦痛。出口の見えない、愛のない夫婦生活を送る苦痛。生きてはいるけれど、お互いに“息”苦しさを感じている2人は出逢う。Text:須永貴子
2人のストーリーは、刑務所の面会室という狭い空間のみで進行する。ヨンはグレーの面会室を春、夏、秋の風景で飾り付け、季節の装いをし、季節感のある曲をチャン・ジンに歌って聞かせる。その歌がうまくないところが微笑ましく、演じるチアが美人じゃないところがまたもの悲しくていい。そして、冬。「あぁ、冬ってやっぱりそうだよな」という納得の光景のなか、二人は互いの息を、全身全霊を込めて通わせ合うがー。
『春夏秋冬そして春』にもつながる、四季をテーマにした本作を、キム・ギドク監督は、わずか15日間、10回の撮影で完成させた。そのために脚本を書き直した回数は20回。回したフィルムはわずか1万2000フィート。編集後に使ったフィルムは9000フィートなので、つまりロスはわずか3000フィート。主演である台湾出身のチャン・チェンは、“声を失った”設定のためセリフはないが、キム・ギドクと組むのは初めてのこと。それなのに、わずか4日間の撮影で、決して少なくはない全シーンを撮り終えたのは驚異的だ。
“息”を軸に、徹底して無駄をそぎ落とした結果できあがった本作。予算や時間、言語といった制約があればあるほど、優秀な映画監督は本領を発揮し、世界観を見せつける。韓国国内からの投資を受けないという制約も、彼にとってはプラスでしかないように思えてくる。これまでも“韓国映画界の北野武”とたびたび称されてきたキム・ギドクだが、本作はそれをいっそう強く感じさせてくれる。その方向性が、『HANA-BI』や『Dolls』の色彩感覚や寡黙さ、様式美と相通じるところが興味深い。
『ブレス』は、5/3よりシネマート六本木、池袋シネマ・ロサほか全国順次ロードショー。

Information
『ブレス』
監督・脚本:キム・ギドク
主演:チャン・チェン、チア、ハ・ジョンウ
配給:エスピーオー
2007 / 韓国
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