「愛する者の喪失に対して、女性がどんな反応を示すのかに興味がある」と語るフランソワ・オゾンは、女性に試練を与える天才的なサディストだ。エリザベス・テイラーの小説をもとに、1900年代初頭のイギリスで成功した女流作家エンジェルの生涯を描いた『エンジェル』では、いったいどんな毒を吐いてくれるのだろうか?
Text:須永貴子
イギリスの貧しい家に生まれ育ったエンジェルは、上流階級に強い憧れを抱き、現実から逃避するかのように、空想世界に生きていた。その想像力をすべて小説にぶつけることで、彼女は大衆ロマン小説家としてベストセラーを飛ばし、富も名声も手に入れる。そして、上流階級出身の売れない画家にプロポーズし、愛も手に入れる。
ペン1本でイギリスの階級社会を駆け上がった野心家のエンジェルは、成功者であり、芸術の「ゲ」の字も知らぬ俗物でもある。大衆受けする小説を量産し、自分に都合の悪い記憶は嘘を塗り重ねることで消去する。だから、恥ずかしげもなく、我が世の春を謳歌することができるのだ。
不思議なことに、20世紀初頭のイギリスに生きる女性小説家であるエンジェルのえげつなさには、なぜか親近感がわいてしまう。芸術家でなくとも身につまされる部分があるし、エンジェルを彷彿とさせる人物も周りを見回せばゴロゴロいる。クラシックな大河ドラマの様式を使いながら、そこで語られるテーマは非常に現代的。そこがオゾンの巧さである。
さて。オゾンがエンジェルに用意した不幸であるが、個人的には「ヌルい」印象。どんな不幸に見舞われても、悲劇のヒロインとしてその状況に酔っているエンジェルには、オゾンも形無しなのかもしれない。結局、女は強いということか。
『エンジェル』は、12/8より日比谷シャンテシネ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー。
フランソワ・オゾン監督のインタビューはこちらから。

Information
『エンジェル』
脚本・監督:フランソワ・オゾン
主演:ロモーラ・ガライ、シャーロット・ランプリング、サム・ニール、ルーシー・ラッセル、マイケル・ファスベンダー
配給:ショウゲート
2007 / ベルギー・イギリス・フランス











