|
石岡良治と石岡紗佑里が運営するデザインオフィス。ファッションやインテリアなどのオリジナルプロダクトの制作や、アートディレクション、グラフィック・デザインをはじめ、プロダクト、パッケージ、テキスタイルデザインなどのクライアントワークを手掛けている。また、毎週火曜日にはアトリエを開放し、オリジナルプロダクトの販売を行っている。
Contact enamel. URL:www.enamel.co.jp E-Mail:ryoji.ishioka@io.ocn.ne.jp, enamel@extra.ocn.ne.jp |
グラフィック・デザインを手がけてきた石岡良治と、プロダクト・デザインの経験を持つ石岡紗佑里によって、2001年にスタートしたenamel.。いまではそう珍しくなくなったグラフィックとプロダクトの融合というテーマにいち早く取り組み、ファッションからインテリアまで、日常の生活にとけ込んだ美しい作品の数々を生み出してきた彼らの活動は、まもなく10年を迎えようとしている。その活動を継続させながら、常に新しいことにチャレンジしてきたふたりに、アトリエで話を聞いた。
Text:原田優輝
enamel.として活動を始めるようになったきっかけを教えてください。
石岡良治(以下R):僕はそれまで伊藤桂司さんの事務所でグラフィック・デザインをやっていて、彼女は、学生の頃から趣味でバッグやクッションを作っていました。その当時、彼女のうちに遊びにいくと、いつも新しい作品が増えている感じだったので、せっかくなら誰かに見てもらったらいいんじゃないかと思ったんですね。ただ、そのままバッグやクッションを抱えて見せにいくのはスマートじゃないので、僕がカタログを作ったんです。その時はまだグラフィックをテキスタイルに落とし込んだりはせず、彼女が作ったバッグをカラーコピーしたものをグラフィックに取り入れてプレゼンテーションしたりしていました。そういうことをするようになると、ユニットとして活動しているという見え方になってきて。ある時、取材を受けるきっかけがあって、その時で「enamel.」という名前を決めたんです。
石岡紗佑里(以下S):ホントにその場で5分くらいで決めた名前でしたね(笑)。色々な素材を扱っていたことなどもあったので、この名前がいいんじゃないかなと。
R:その頃はまだ伊藤さんのところで働いていたのですが、伊藤さんの展覧会が終わってひと段落したタイミングで1週間休みをもらったんです。その間に、自分たちの仕事をしていたら、いつの間にかそっちが忙しくなってきて…。それで伊藤さんのところを辞めさせてもらい、2001年から本格的に活動をスタートしました。

(左) 3rd collection adoration accessories、(右) 4th collection bag
実際に2人で活動を始めてみていかがでしたか?
R:例えば、アートブックや写真集を見たときの感想などがもともと近かったこともあって、一緒にものを作るということになっても、特にスタートラインを確認し合う必要がなかったというか、自然に始めることができました。感性が近い分、逆にお互いのズレがある時もそれはそれで新鮮だったりして、面白いなと。
S:その当時は、まだファッションやプロダクトとグラフィックを一緒にやっている人がそんなにいなかったので、面白がられたというのもありました。例えば、わたしの周りの人たちに作品を見せるとグラフィックが面白がられて、彼の周りだと、逆にファッションやプロダクトとして面白がられるという感じでした。
R:その頃のグラフィックやエディトリアル・デザインは、すでに色んな手法が出てきてしまっていて、少し食傷気味になり始めていたところがあったんです。そうした平面のヴィジュアル表現よりも、ファッションやプロダクトの方が元気があるように感じるようになってきて。実際、本屋よりも洋服屋なんかに行った方が得られる情報や刺激が多かった。その辺りからファッションやインテリアへの興味が強まり、視覚的な要素だけではないグラフィックというものを考えるようになりました。

(左) 5th collection pants、(右) 6th collection bag
enamel.さんの作品は、2次元の表現であるグラフィック・デザインと、3次元の表現であるプロダクト・デザインの2つの要素が見事に融合していますよね。
R:自分のなかでは、ふたつのジャンルをまたいでいる意識は全然ないんです。単に自分たちが興味があるものを作っているというところが大きくて、その媒体が紙から布や陶器に変わったくらいにしか思っていません。もともと、学生の時にテキスタイル・デザインを学んでいたので、生地にシルクスクリーンで刷るというようなこともやっていたんです。その後、グラフィック・デザインをやるようになったのですが、DTPが普及してきてからは、すべてデータで成立する印刷物よりも、学生の時にやっていたテキスタイルの方が魅力的に感じられるようになってきました。そういう意味では、先祖返り的な感じではあったんです。
S:あと例えば、グラフィックをお皿に落とし込もうという時に、Tシャツみたいにプリントを乗せても絵皿にはなるのですが、あえてお皿全体に巻き付けるようにアートワークを乗せたらグラフィックが立体的に見えるかなとか、グラフィックに刷ったテキスタイルを組み立てて立体のバッグを作るとか、2次元と3次元をどう組み合われば面白いものになるかということはいつも考えています。
R:例えば、紙の場合、中心と端があって、そこに情報をどう落とすかというところがすべてで、それはそれでスゴく潔くて美しい世界なのですが、立体やテキスタイルになると、その計算ができないところが面白いんです。テキスタイルにしても、切り取り方次第で見え方が変わってくるし、それを立体的に組み立てることで陰影が入るとまた表情が変わる。そういう予想だにしない出会いのようなものがあるんですよね。

7th collection exhibition
新作の発表はシーズンごとに行っているのですか?
R:もともとはそうしていたのですが、作っているものがシーズンレスなものが多いこともあり、最近はあまりその辺を気にしなくなってきていて、発表する回数も少し減ってきています…。もっとちゃんとやらないといけないとは思っているのですが(笑)。いつも、展覧会をやる時期が決定してから、そこに向けて作り始めるという感じです。でも、以前メーカーの仕事などをやっていたときに、展示会ベースで動いていたのですが、いくら愛情を持って作ったものでも、展示会で売れなければ切り捨てられてしまうという状況があったんですね。そういう反応にビビりながら作っていた経験もあって、それがストレスになったりもしていたので、自分たちのペースで好きなものを作っていきたいというのは、自分たちの基本スタンスではあるんです。
どのようなやり取りを経て作品を作っていくのですか?
R:普段から、思いついたことなどを話し合ったりしていて、ある程度方向性が見えてきたら、それぞれが手を動かしてカタチを作っていきます。その段階になって、自分はグラフィック、彼女は立体という具合に持ち場が分かれていく感じですね。テーマは、まずは抽象的なところからスタートして、作ってみたらこう見えるから、(テーマは)やっぱりこうしようとか、後付けしていくことも多いですね。
S:その時の自分たちの生活の流れみたいなものも関係してきますね。例えば、陶磁器を作っている人と知り合ったことがきっかけになって、そこから実際に素材に触ったりしながら、時間をかけてカタチになっていった陶磁器のシリーズなどがあります。もともと陶磁器で何かを作りたいと思っていたので、思い続けていると出会いはあるんだなと。

7th collection(Re-Issue)
生活との関連性というのももの作りのポイントになっていそうですね。
R:そうですね。自分たちの生活に必要なものというのが前提というか、「部屋着感覚」みたいなものはあるかもしれません。例えば、シャンパングラスを作った時も、普通にそれを使うのが恥ずかしいという思いがあって、もっとTシャツ感覚で使えたらいいなということでグラフィックを落とし込んだり、自分たちの生活の範囲で使っていけるものというのは基準になっていますね。
ファッションからプロダクトまで、手掛けるジャンルが幅広いのもそのためですか?
R:それもありますし、単純に天の邪鬼なんです(笑)。毎回シリーズで同じものを作っていくのではなく、常に違うものを作ってみたいんです。紙、布、陶器と徐々に覚えていきながら、サンプルを取っていく作業に近いところがあります。これは僕の個人的な考えなのですが、デザイン事務所を早く辞めすぎたこともあって、どれだけ自分で幅を広げていけるかというのが課題としてあるんです。あと、同じ畑で同じものを育てていても来てくれるお客さんは変わらないけど、そこで違うものを色々育てていればもっと色んな人が来てくれるんじゃないかと思っているところもあって。そうやって色々種蒔きしたものを、収穫して売っていくみたいなニュアンスがありますね。
enamel.さんの作品は、それぞれがアートピースのような佇まいがありますが、一点物を作っていくという考えなどはないのですか?
R:不特定多数の人に作るよりは、欲しいと言ってくれた人に作るということに興味があるので、そういう意味では一点物を作るという感覚に近いかもしれません。でも、あくまでも自分はデザイナーで、作家ではないと思っています。例えば、いま1週間に1日だけアトリエを開放しているのですが、これも毎日開放してお店のようにしてしまうと、職業が店長みたいになってしまってイヤだからなんです。今はまだ、あくまでもデザインをやっていきたいというのが主軸にあります。今後、自分たちが作家というところを意識するようになると、「一点物しか作らない」とか言い出すかもしれないですけど(笑)。
クライアントワークもenamel.名義でやられていますね。
R:はい。いまは、生産業と受注業の両方がバランス良くできていると思っています。例えば、海外のメーカーでも、自社生産と受注仕事を両方やっているところは多いし、その方が自然に感じられるんです。スタート当初は、enamel.をブランドにしていこうという感覚があったのですが、最近はもっと自由に立ち位置でやっていければいいかなと思っています。

10th collection
最新作について教えてください。
R:最近、子供と一緒にキャンプに行くようになって、色々なキャンプ場やそこにきている人たちを見るようになったんです。それがきっかけになって、自分たちなりにキャンプをやるとしたら何をやるかというところから、敷物になるバッグというのを考えました。それを実際にカタチにするにあたって、餃子の皮を包むようなニュアンスで作るのが面白いということになり、このようなシリーズが生まれました。
S:洋服も一緒に作ったのですが、こちらは部屋着のような感覚で作っていきました。家の中と外の境界をなくしていきたいという感覚は以前から自分たちのなかにあったので、それをカタチにしていきました。
まもなく活動10周年になりますが、何か変わってきたことはありますか?
R:いまは家族ぐるみという感じでやっています。昔は恥ずかしいからあまりそういうものは見せたくなかったのですが、子供を育てながら仕事をしているというのもいいんじゃないかなと。お客さんが来たときに泣いちゃったりして大変なこともあるのですが(笑)。
最後に、今後の展望について教えてください。
R:まずは続けていくということですね。例えば、仲條正義さんのように、あのお年になってもグラフィック・デザインをやっているのを見ると、スゴくカッコ良いなと感じるんです。年をとってからも仕事が来るとか、自分の作品を買ってもらえるというのはすばらしいと思います。すでに何度かあきらめそうになっていますが(笑)、デザインをするという職業は変えずに続けていきたいと思っています。

10th collection Image Visual
Information
enamelのプロダクトは、PUBLIC/IMAGE.3D で販売中。
PUBLIC/IMAGE.3D
Address:東京都世田谷区池尻2-32-2 デパール池尻ビル1F
Tel:050-8882-0087
営業時間:12:00~19:00(月曜休)



















