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1998年8月、学生時代の友人である柳澤大輔、貝畑政徳、久場智喜により、インターネットサービスの企画・開発・運営を事業とする合資会社 カヤック設立。2001年には、受託制作を主要事業とする CUPPYをグループ会社として設立。2005年には株式会社化し、現在に至る。面白法人と自称し、絵の測り売りショップ「 ART-Meter」や、建築家マッチングサイト「 HOUSECO」など自社サービスを運営。また2007年には新規事業を手がけるラボチーム「 BM11」を立ち上げた。「サイコロ給」や「旅する支社」などオリジナルの制度も多数。
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毎月の給与がサイコロの出目によって決まる「サイコロ給」制度や、期間限定海外オフィスの「旅する支社」などの斬新すぎる社内システム。絵の”測り売り”サービスとして、オンラインショップとリアルショップを展開する「ART-Meter」など、次々とリリースされる自社サービス。さらに、オフィスに併設されたどんぶりカフェ「 bowls 」の運営etc…。どこを切っても「面白そう」な活動で、各界から注目を集める”面白法人” カヤックが持つアティテュードには、受注仕事に束縛された名ばかりのクリエイティブを一喝するような強烈なエネルギーが感じられる。とどまるところを知らないその活動の源泉を探るべく、カヤック設立10年を迎えた代表の柳澤大輔を取材しに、鎌倉にあるオフィスを訪れた。
Text:原田優輝
まずはカヤック設立の経緯を教えてください。
ちょうど僕らが大学生だった頃にインターネットが出てきて、ホームページという概念を知り、世界中の人がつながれるということを経験したのが出発点です。それから大学で専攻が同じだった貝畑と久場と僕の3人で、将来会社を作ろうという話をするようになったんです。大学を卒業してからすぐに起業するのではなく、それぞれが1度社会に出て、2年後に集結してカヤックを立ち上げました。「とりあえず集まろう」という感じで始めたのですが、インターネットを使って何かをやろうということだけは決めていました。設立当初から受託の仕事をやりながら、自社サービスのサイトもリリースしていましたね。
カヤック代表柳澤大輔氏。
当時のインターネットを取り巻く状況はどういったものだったのですか?
98年に会社を設立したのですが、まだGoogleも出てきていなくて、いわゆるネットバブルもまだ訪れていませんでした。当時から、IT業界で起業をしようという新しいモノ好きの人たちはいたのですが、まだクリエイティブな業界という感じではなかったと思います。2000年頃を境に、ブラウザで画像のアップロードが簡単にできるようになるなど、サービスが劇的に変化して、自分たちもその頃に「T-SELECT」を始めたんです。
「T-SELECT」(1999)
一般投稿で集まったデザイン案を毎週掲載し、10枚以上注文があると商品化されるというTシャツショッピングサイト。2005年にライブドアに売却されたが、運営は現在もカヤックが担当している。
Webサービスは技術とともに進化していくところがありますよね。
そうですね。例えば「こえ部」というサービスも、ブラウザ上で音声を簡単にアップロードできる技術のおかげで、これだけ活性化させることができました。以前だったら専用ソフトをインストールするなど、ややこしい作業が必要でしたからね。ハードの進化とともにやれることも変化していくので、それに合わせて新しいサービスをリリースするということを繰り返していたら、いつの間にか10年が経ったという印象です。ただ「一発当ててやろう」という人が多かった2000年前後の混沌とした時代に比べると、最近は新しいことをやろうという気概がある人は少なくて、海外でヒットしたサービスをアレンジしているだけのサイトなどが多いですね。アメリカなどの場合、YouTubeやMySpaceなどが突如登場して、天下を取るということがよくあるのですが、日本にはそうした入れ替わりがあまりないような気がします。
その中でカヤックは、とてつもないぺ−スの自社サービスを次々と提案しているように思います。
「量から質が生まれる」という意識をもって、とにかく数を出すことを信条にしています。構想段階で面白いと思えるアイデアは、まずプロトタイプを作り、反応が良ければさらに伸ばしていくというやり方です。そうした戦略はインターネットというメディアにはとても合っていると思うんです。だから、立ち上げたもののユーザーがほとんどいなかったりして、そのまま放置されているサービスもあります。でも、それもある程度は想定内。大きな企業だとそれによってブランドの価値が下がることになるかもしれませんが、うちの場合は最初からそのスタイルでやっているので(笑)。
「こえ部」(2007)
ユーザーが自身の「こえ」(音声)を録音・投稿できる音声専門のコミュニティサイト。どんな「こえ」を聞きたいか「お題」を出したり、「お題」に応える「こえ」を投稿したりすることできる。
これだけの数のアイデアを継続して提案していくのは並大抵のことではないと思うのですが、具体的にはどのように進めているのですか?
ブレイン・ストーミング(以下ブレスト)を頻繁に行っています。企画を提案するために、スタッフが自主的にブレストをすることも多いですね。うちのブレストでは、デザイナー、ディレクター、プログラマーの各職種からバランスよく参加します。また始めに議事録と司会、さらにリサーチャーという役割の人間を決めます。リサーチャーというのは、ブレストで出たキーワードをすぐにインターネットで調べて検証する役です。出されたアイデアがすでにあるものかどうかを調べたり、言葉の由来などをその場で確認することで、話がさらに発展していくんです。ブレストで大切にしていることは、とにかく出たアイデアを拾っていくこと。ピリピリした空気では良いものは生まれないですからね。
設立当初から「面白法人」を名乗っていますが、「面白い」の基準は人によってまちまちだと思います。その中でどのように自社サービスのクリエイティブ・コントロールをされているのですか?
カヤックの核となる部分についてはもちろん確認していますが、各サービスの中でどんなことをやっているのかはほとんどチェックしていません。だから、社内で反対意見が多くても、そのアイデアを出した本人が「どうしてもやりたい」と言って実現するものも多いですし、「誰も使う人がいないかもしれないけど、他にやっている人がいないからとりあえずやってみよう!」というサービスもあります。作りたい人が「作る!」と言って、皆から応援されるというのがうちの文化だし、基本的にはみんな自分が欲しいと思うものを作っています。当の本人が面白いと思っていれば、同じように面白いと思ってくれる人たちが何人かはいるはずですからね。
では、カヤックにとって「面白い」の基準とは?
「カヤックさん、面白そうに仕事してますね」と言われることです。カヤックが面白いサービスをやっているかどうかは、人によって評価が変わってくるところですから、それよりも会社を人格として考えた時に「面白そうに生きている」とか「楽しそうにやっている」と思われたい。自分が楽しんでいなければ他人を楽しませることはできないですからね。
「ART-Meter」(2005)
絵の面積に応じて価格が決定する測り売りでアートを販売するART-Meter。現在はオンラインショップとリアルショップ(東京・自由が丘)で展開されている。2008年にはイタリア・フィレンツェにも進出。
現在の社内の体制について教えてください。
カヤックには「プロジェクト」「部」「委員会」の3つの軸があります。「プロジェクト」は「T-SELECT」や「ART-Meter」などのサービスごとに作られているチームで、これは各スタッフがいくつか兼任していることもあります。「部」は、プログラミング、 Flash 、デザインなどの職能ごとに分かれている部署のことです。「委員会」というのは、スタッフ各々の興味に応じて有志で作られた組織です。基本的にうちの会社には、デザイナー、プログラマー、ディレクターの3職種しかいないので、この「委員会」が人事やセキュリティなどの面を担ったり、より良いワークスタイルを研究したりしています。この「委員会」があることで、スタッフそれぞれが会社づくりに参加できます。最近は(委員会の)数も増えたりしていて、有機的に組織が変化していますね。
クライアントワークについても教えてください。
自分たちよりも価値の高いブランドと一緒にどういうことができるかを考えることは面白いですし、とてもやりがいを感じています。Webの場合は、テレビCMや紙媒体の広告とは違い、一発立ち上げて終わりではなく、継続的に検証しながらカスタマイズしたり、バージョンアップさせて次に運用させていくことも多いので、自社サービスで培ったノウハウが強みになるんです。また、最近では、雑誌で連載を持っているスタッフなどもいますし、海外の広告賞での受賞も続いています。個人的には、賞にはあまり興味がないのですが、賞を取ることでモチベーションが上がるスタッフがいるのであれば、どんどん受賞してもらえればと思っています。

建築家と家を建てたい人とをつなぐ自社サービス「HOUSECO」でコンペを行った自由が丘のオフィス。人工芝が敷かれた遊び心あふれるオフィスとなっており、1階にはART-Meterのリアルショップが併設されている。
自社サービスとクライアントワークを並行して進めていく上では、色々な意味でバランス感覚が必要になってきそうですね。
現在の自分たちの立ち位置を考えると、バランス感覚はとても重要だと思っています。バーチャルのWebサービスだけではなく、「bowls」や「ART-Meter」などのリアルショップを運営していることもそうですし、スタッフについても、デザイナー、プログラマー、ディレクターとそれぞれの職能に分かれてはいますが、デザインにも興味を持っているプログラマーなどがうちには多い。うちのスタッフはバランス感覚が取れていると思います。大前提として、クリエイティブに興味があるということは必要ですが、独りよがりにならず、他人がどう思うかを想像できる客観性や、必ずしも自分が多数派ではないと割り切れる柔軟性を持つことが大切だと思っています。
ところで、柳澤さん個人のお話もお聞きしたいのですが、これまでに影響を受けてきたものは何かありますか?
マンガ的な発想や生き方にスゴく影響を受けていますね。ここでピンチになって、ここで解決するみたいなね(笑)。ジャンプ世代ですから(笑)。2000年頃に、人気マンガを全巻まとめて販売する「古マンガ」サイトを展開したのですが、ほとんど売れずに失敗しました(笑)。最近はそういうサイトがスゴくうまくいっているのですが…、時期的に早すぎたんですね。
「漫ガキ」(2007)
マンガ好きのためのコミュニティサイト。SNS、Blog、Wiki等の基本機能をベースに、Flashの特性を生かした様々なギミックが用意されている。
具体的に影響を受けたマンガ家などはいるのですか?
マンガに限らず、その都度色々なものに影響を受けるのですが、特定の人のファンになるようなことはないんです。人から勧められたものはほとんどチェックしますが、あまり自分から能動的に情報を得ようとはしません。うちにはテレビもないですし、新聞も読んでいません。誰かに教えてもらったものだけでも、ある程度必要な情報は入ってきますからね。世の中に流れている情報はすべてメッセージと考えているのですが、タイミングが合わない時にそれを受け取っても、自分のなかに何も入ってこないんです。そういう生活をしているから、常識はなくなっていくし、流行りも全然知らないんです(笑)。
Web業界の動向などもあまりチェックされないのですか?
人に勧められてから見ているので、情報を得るタイミングは遅いですね。でも、話題になったものはすべてチェックしています。新しいものを先に見つけるタイプではなく、後から知って本質を理解するという感じです。
今後のクリエイティブ業界において、重要だと思われていることがあれば教えてください。
それぞれの個性を伸ばしていくことが大切かもしれないですね。その人にしか作れないものを持っている人はやはり強いですし、それを各々が持ちながら互いに助け合っていければ面白くなると思うんです。そのことはスタッフにもよく話しています。うちにはバランス感覚の取れた「オタク」が多いんです(笑)。今後は、会社単位でもクリエイター単位でも、さらにそれが顕在化していくと思っています。
最後に、カヤックの今後の展望を教えてください。
最近は携帯電話事業に力を入れています。ゲームと出版も3年以内にやりたいですね。あと、会社として「新卒に人気の企業になりたい」とか、いくつか目指すべき形容詞のようなものを設定しています(笑)。自分たちの担うべき役割は、誰かが作ったものをネット的な発想でマッシュアップしたり、再編集して面白いものを作っていくという部分だと思っているので、今後もそこを押し進めていきたいですね。
鎌倉のオフィス。和をテーマにした2フロアからなるオフィスは、コミュニケーションを大切にするカヤックらしく、ひと目でフロア全体を見渡せるような構成になっている。鎌倉にオフィスを構えた一番の理由は、「海と山があるから」と柳澤。












