Public-image.orgが企画する対談形式のマンスリートークイベント「PUBLIC/IMAGE.SESSION」。去る3月27日に開催された同イベントでは、『東のエデン 劇場版Ⅱ -Paradise Lost-』公開を記念して、神山健治監督とAR三兄弟の2組が登場。「物語」と「技術」の関係性などをテーマに、濃密な対話が展開されました。そのすべてをここでは伝えきれませんが、ダイジェスト版でお楽しみください。
Text:原田優輝

神山監督とAR三兄弟さんの出会いは?
AR三兄弟 長男(以下長男):『東のエデン 劇場版Ⅰ』が公開される前に、僕らが監督にお会いして、「東のエデンシステム」を実際に作れますというお話をして、やらせてもらうことになったのが最初の接点です。
神山:実際にできるなら、ぜひ作ってくださいという感じでしたね(笑)。
その時点で神山監督は、ARという技術はご存知だったのですか?
神山:「拡張現実」というものはなんとなく聞いていましたけど、具体的にどうやって使われていくものなのかは、イマイチ分かっていませんでした。「東のエデンシステム」に関しては、Googleなんかで検索をするときに、画像や映像も検索できればいいなと以前から思っていて、それが発想のきっかけになっています。いずれは現実世界でもできるようになるんじゃないかと予想はしていたけど、『東のエデン』を作っている間にはできないんじゃないかと思っていましたね。
AR三兄弟さんは、『東のエデン』を最初に観たときにどんな感想を持ちましたか?
長男:普段からAR関連のことを色々やっていると、『東のエデン』や『電脳コイル』は当然見ているかのごとく聞かれることも多かったのですが、実はその時点ではまったく見ていなかったんです。その後、映画のプロモーションの話を頂き、そこで初めて『東のエデン』シリーズを拝見しました。そうしたらものスゴく面白かったし、未来のARのシステムが、そのまま作品の中にあるように感じたんですね。僕らは、現在形のARの可能性を色々探求していたんですが、ここにはそのひとつの答えがあって、僕らにとっては、それが未来のプロトタイプに思えたんです。物語の中にシステムの設計図があるなら、それをそのまま取り出せばいいんじゃないか、と。
東のエデン × AR三兄弟
物語のなかで描いていた新技術が、実際に現実の世界にも出てきている状況をどのようにとらえていますか?
神山:単純に面白いなとは思いますが、物語を作る側としては、大変な時代になっちゃったなという印象ですね。今までSFでしかできなかったようなことが、実際にできるようになって、追いつかれちゃってるわけですよね。そうなってくると、もっと先を考えなきゃいけないのかなとか、よっぽど突飛なことを考えていかないとダメなのかなというような感覚に陥りそうになります。
長男:僕らは、「AR三兄弟」と名乗っているので、たまに何かの間違いで、ちゃんとした学会に呼ばれることもあるのですが、そこでもよく議論になるのは、物語と技術革新の関係性です。学者や技術者が、技術だけを探求しても、果たしてそれが一般的に見たときに有効なサービスとして浸透するかというと、なかなか難しい問題です。世の中の人が将来それを使っているイメージを膨らませていくということは、技術者にとっては苦手分野だと思うんです。そこで彼らがヒントにしているのが、「物語」なんです。実際に多くの科学者が、『鉄腕アトム』や宮崎駿さんの映画に興味を持ったことをきっかけに、その世界に入ったりしています。そういう意味でも、「技術」と「物語」には、相関関係があるのかなと思います。
神山:一番分かりやすい例として、日本のアニメにはロボットが多いというのがありますよね。例えば、二足歩行ロボットにしても、これまでに日本の研究者はずいぶん作りましたが、海外の学者からすると、一番難しい二足歩行のロボットを作るという発想はないらしいんですね。なぜ介護のためのロボットが二足歩行じゃないといけないんだ、と。でも、日本の学者たちは、マンガ、アニメの影響があり、二足歩行ロボットを色々考えたらしいんです。

『東のエデン 劇場版II Paradise Lost』 (C)東のエデン製作委員会
長男:監督は『東のエデン』の構想時に、どの程度技術的な部分を掘り下げてから、物語に落とし込んでいったのですか?
神山:むしろ技術的な部分は、一番最後に考えました。もともと『東のエデン』は、ニートたちを応援する話にしようというテーマがありました。今の若い世代と上の世代が決定的に違うのは、ネットワークがあったかどうかということなんです。それを作ったのは上の世代なんだけど、実際には若い人たちの方が使い方は上手いですよね。それが悔しいから、上の世代は、自分たちが決めたルールの下でそれを使わせようとする。でも、当然下の世代はそれを聞きたくない。その関係性を突破口にしようという発想がまずあったんです。そこから、「ネットの技術を使って大人たちを出し抜きたい」ということを色々な人に話しながら、リサーチしていきました。そこから「画像認識エンジン」という話が出て、最後にはAR三兄弟さんが登場して、実際に作れる、と。もし、あと半年位前に僕の前に現れて頂けていたら、板津師匠の後ろには、カクメットをかぶった御三方が出ていたと思います(笑)。
長男:惜しかったですねー(笑)。でも、そうやって考えられたシステムが、技術者たちが次にやろうとしている方向性と完全にピントが合っているというのがスゴいと思います。『東のエデン』の設定が2011年というのもリアルですよね。
神山:『東のエデン』をスタートする時に、自分には見えていなくて、若い世代には見えているものは何かということを考えたんです。その際に時事ネタも色々拾っていったのですが、そこでなんとなく見えてきたのが、今の若い世代には、既得権益者に搾取されているという感覚があるのかなということでした。例えば、すでにインフラが完成されているはずなのに、携帯電話の料金は全然安くなっていないし、ネットの料金も高い。そういう古いインフラの仕組みに縛られていることで、次に進めないという感覚が無意識のうちにみんなの中にあるのかなと。その辺がスタートとなり、「東のエデンシステム」のアイデアにもリンクしていったんだと思います。
長男:僕は、若くもなく、年寄りでもないという中途半端な感じなんですけど(笑)、もともと携帯が生活の中心にあって、ネットワークにつながっている状態が当たり前で、他者との対話もインスタントにできてしまう時代に生きているという感覚はあります。自分たちの手元から何かを起こすことができるかもしれないという潜在的な意識は、多くの人が感じていることだろうし、それが『東のエデン』という物語の中で実現化されている。だから、『東のエデン』を見て熱くなる技術者も多いんです。

『東のエデン 劇場版II Paradise Lost』 (C)東のエデン製作委員会
神山:僕はプログラムを組めるわけじゃないし、技術者じゃないと太刀打ちできないところに今のインフラにはあるのかもしれない。AR三兄弟さんたちなんかを見ていても、技術面から世の中をひっくり返すようなものが、すでに出てきているのかもしれないなと思います。例えば、昔だったら、ミュージシャンになって楽器さえ弾ければ、社会に物申せた。でも、今の若い人たちはもっとおとなしくなっていて、ギターを手に激しいロックを歌う代わりに、携帯電話を握りしめて四畳半に立てこもるということが、社会に対する反逆のスタイルのひとつになっている。『東のエデン』に出てくる連中も基本的にはおとなしいですしね。でも、それが今の空気感なのかなと思っています。
長男:僕たちの場合は、仕事としてWebや印刷のデザインをやったり、システムを作ったりしていたのですが、自分たちで何かを表現しようと思ったときに手元にあったのがARだったんです。例えば、「絵を描く」ということに関しては、すでに先達がたくさんいるわけです。それと同じことをやるということは、ある意味クラシカルなことなんですよね。いま色々なツールや技術があるんだったら、やっぱりそれを使っていった方がいいと思うんです。それを僕らは、AR三兄弟として落としこんでいるつもりなんですが、そうでもしていかないと、もう独自のものは作れないんじゃないか、と。
神山:『東のエデン』は、今の日本が閉塞しているというところからスタートしたんですが、一方で本当は自由にやれる時代だと感じるところもあるんです。80年代に僕らが社会に出て行こうとしたときには、この国は成熟しきっていた。消費という意味においては、僕らは主役だったんですが、例えば、アニメーションをこれから作り始めようとしたときに、その制作工程というのは、すでに完成されていたんです。しかも、宮崎駿監督を筆頭に、上の世代に素晴らしいクリエイターもたくさんいた。自分たちに唯一アドバンテージがあるとしたら、彼らより若いということだけでした。でも今は、デジタル技術によって、アニメーションの作り方も千差万別になり、既存のシステムに乗っからなくてもよくなったんですよ。だから、アニメ業界で考えてみても、宮崎監督に勝てる可能性が、実は僕らが業界に入った時よりもあると思うんです。今はなにかやる度に、「それはすでにやっている」と言われがちだから、挑戦しないで門を閉じてしまっているところがあるような気がします。でも、自分がどこに入り口を設定するかということ次第で、ずいぶん変わってくるはず。そういうことは、『東のエデン』を作っている時にも感じましたね。

Artist Profile
神山健治
1966年生まれ。背景美術としてアニメ業界入り。背景から演出への転向を表明し、『人狼 JIN-ROH』(00)などの演出を手がける。初監督作は『ミニパト』(02)。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(02)シリーズで、高い評価を獲得した。
AR三兄弟ALTERNATIVE DESIGN++の中の人々が、3つの意味で拡張現実を目論んで結成した企画・開発・活動ユニット。APIだけに留まらず、玩具・物語・テレビ・映画・ラジオ・音楽・自然現象など、ユニークな題材をマッシュアップすることで、新しいメディアを作ろうとしている。
インタビューはこちらから。












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[...] “物語”と“技術”の観点から語られる現実や未来、表現についてなど神山監督の世界観と、独特の雰囲気と視点を持ったAR三兄弟のトークが絶妙にマッチして会場は新しい空気に包まれていました。東のエデンファンにはもちろん、“ものをつくりたい”全ての人が楽しめるイベントだったと思います。 PUBLIC/IMAGE.SESSION Vol.3 :神山健治×AR三兄弟(対談記事へのリンクはコチラ) [...]