写真家・植本一子氏と、ライター南波一海氏が、毎回気になるクリエイターの仕事場に突撃する連載コラム「お忙しいところ失礼します。」。
今回はいつもと違い、特定のスタジオを持たない移動型ラジオ・ショー、ヴィンセント・ラジオに潜入取材。充実した番組内容とは裏腹に、発信する側の実態そのものは匿名性が高く、実際、主宰者・阿部周平氏が番組に登場することはほとんどない。「今後取材を受けるつもりはない…たぶん(笑)」とも言う阿部氏に、貴重な話を伺ってきた。
Photo:植本一子
Text:南波一海

月にたった一度だけ、インターネット上に姿を表すヴィンセント・ラジオ。「一日の流れを作るのに最低限必要な長さ」だと言う12時間にも及ぶ放送は、レコード店おすすめの盤紹介から、トークショウ(含おしゃべり)やビッグネームによるDJミックスなど多岐に渡り、その音楽愛溢れる番組内容から、すでに心ある音楽ファンの間では話題を集めている。撮影時はこのオフィスが発信場所となっていたが、それは必ずしも決まっておらず、機材を運んだ場所がスタジオとなる。
「放送システムがあるところがホームスタジオという(笑)。最初は点々とするのが面倒臭かったんですけど、前向きに考えれば、場所に合った色んなことができるかなって。ディズニーの映画で『ブラックホール』(1979年)っていうのがあって。そこにV.I.N.CENTっていう炊飯器みたいなロボットが出てくるんですね。“Vital Information Necessary CENTralized”っていう必要な情報が集まるものというか。ウィルスみたいな。そいつが動き回って単独で自動放送してるっていう設定なんです。でもツイッターでミスポストとかよくしてて。まだキャラ付けが上手くできてない(笑)」
そもそも、なぜラジオをやろうと思ったのだろうか。
「95年くらいにRealAudio Playerがリリースされた当時、アメリカのWFMUやWNYUっていうラジオを聴いたりしてました。“ラジオできるな”とか思って調べたりして。でもワケわかんなくてしばらく放っておいたんですけど、ネットラジオにやってるヤツとか、ラジオサーバーを持ってる人とかと段々と知り合いになっていって。決め手としてはiPhone、いわゆるスマート・フォンの普及。あれはポータブル・ラジオになるじゃないですか。“時代が変わったな”と思って。それで、JAYPEGってDJチームでもイベントをラジオ中継したりしてたんだけど、それはDJパーティの実況中継だったから、もっとラジオっぽいものをやりたくて。レコードかけながら合間になんか喋って、みたいな。感覚としては、電波のFM/AMラジオとミックスCDの中間のようなもの。隙間産業みたいですけど(笑)、その辺があったらいいかなと」
笑いながらあっけらかんと話すが、阿部氏の素朴な思いから始まった行動は、少なからずの人々が歓迎して受け入れている。回を追うごとにリスナーが増えているという事実は、その「隙間」が求められていることを証明している。
現在は「いつもバタバタしがちで編集の手間があまりかけられない」という理由から生放送のスタイルを取っている。その臨場感、リアルタイムを楽しむ感覚は、昨今盛り上がりを見せるUstreamを使った草の根〜マンモス放送局のそれとシンクロするもので、今、同じ時間に起こっていることだからこそ、その場に皆が集まって来ているのだろう。そんな中でもヴィンセント・ラジオを特別足らしめているものは、集まる人々の多彩なセンスや好奇心が作り出すオリジナリティであり、同じ仕組みを使っているからこそ、その切り口の面白さや魅力に改めて気付かされる。
今後は月一回の放送を徐々に拡大していく予定で、すでに2月からは生放送日の一週間前に前月分の再放送を配信している(2/28の再放送が3/21予定)。ヴィンセント・ラジオの緩やかな(しかしとんでもなく大変な)試みは、ラジオと音楽のリスナーを取り戻すきっかけになるに違いない。


スタジオ全景。「ここはヴィンセントのスタッフの人の仕事場で。初回もここから放送した。サテライト・スタジオというか古巣と言うか(笑)。ちなみに首都高のすぐ側だから、ガンガンに音も出せます」
ここ以外では、渋谷のTurntable Lab Tokyoや宇田川町のおでん屋「静岡おでんROKU」などから放送したこともある。
Favorite Tool

(上)アナログコンプdbx118が2台と、手前に見えるのはオーディオ・インターフェイスのApogee Duet。これがヴィンセント・ラジオの高音質を支える要。「dbx118は、声のバラつきを抑えるための1台と、曲とか全体の音を整えるためにもう1台。ガッツがある音になってスゴく良いんですよ。Apogee Duetもバッチリです。家で使っていた時にパソコンの音がガラっと変わって。これ(dbx118)とこれ(Apogee)で良いだろうって。でもリミッターは欲しいかな」
(下)オールドスクールなパワーブックの後ろに鎮座するのは、モニター用ラジカセのSony ZS-M5。「これもスゴく音が良いですよ。ちょっと気を抜くとボリュームが小さくなりがちなので、スタジオの出音をチェックする用に使ってます」



Creator Profile
ヴィンセント・ラジオ毎月最終日曜日のひる12時からよる12時まで、トーク、音楽、お得情報満載のコンテンツでお送りするささやかなネット放送局。レギュラー番組からステキなゲストを迎えての番組などなど、多彩なセンスで音楽好きからiPhone操作に手こずるOL&奥様、さらにはネットモグラまでの休日をブライトに演出致します。近日ヴィンセント・キッチンなる別チャンネルも立ち上げ予定アリ。Stay Tune Yo!!!!
阿部周平47年東京都生まれ神奈川県育ち、現在東京都在住のデザイナー/プロデューサー。デザインユニット「イルドーザー」設立解散後、DJユニット「JAYPEG」結成解散。現在は毎月最終日曜日に放送中のブライトなインターネットラジオ「Vincent Radio」に肩入れ。盟友DJ 1Drink とのパーティー「House of Crack」も不定期に開催中。引き続きハイエンドなヒマつぶしを続行中な二児の父。
Posted by:植本一子
84年広島県生まれ。写真家。02年、高校生の生活フォトコンテスト受賞。03年、日本写真芸術専門学校在学中に、キャノン写真新世紀で、審査員の荒木経惟氏らから賞賛を受け、優秀賞を受賞する。2009年11月よりA/M所属。
南波一海
ライターなど。音楽誌『ヒアホン』編集の他、各専門誌で音楽や映画などについて執筆中。
近況:今回更新が遅くなってすみません! すべて僕の責任です。そんな中(?)、AUTECHREの新作『Oversteps』のライナー書きました。ヒアホン4号は間もなく……出さないと! それと、4/3に吉祥寺dzumiで、トークショー「おとのおと」に参加します。テーマはエレクトロニカ。早い! ポッドキャスト『ウィンドアンドウィンドウズ』も聴いてみて下さい。











