Public/image.にゆかりのある様々なクリエイター、編集者、ライターなどがコントリビューターとなり、世界各地から旬なクリエイティブ情報を届けてくれる「WORLD CULTURE REPORT」。
第2回目は、ロンドンを拠点に、ビジュアルカルチャー全般の書籍・雑誌の編集/執筆、アーティストコーディネーション、展覧会のオーガナイズ等を行う寺島彩子氏に、イーストロンドンの運河沿いギャラリー案内をしてもらいます。
Text & Photo:寺島彩子
Thanks to:Jason Evans, Akiko Nakadai and Will Sweeney
2010年冬のロンドン。クリスマスが伝統行事である国はどこもそうかもしれないが、年が明けた途端、ポスト・クリスマス・シンドロームとも言うべき、しんどい数ヶ月が待っている。イギリス人の誰と話しても「1月、2月は最悪!」という嘆きの声。天気も景気も悪い。ただ一般の人たちすべてがそこまで絶望的になっているわけでもなく、淡々と日々の生活を送っていたりもする。もちろんカルチャー面においても、年明けから展覧会や音楽イベントなど色々な動きがあった。
ロンドンに来たことのある人でカルチャー好きなら周知の事実だと思うが、良くも悪くもカルチャーシーンで、今一番盛り上がっているのは、ハックニーを中心としたイーストロンドン。ハックニーのちょうどど真ん中にリージェンツ・カナルという運河が通っていて、東はテムズ川ライムハウス付近から、北西はカムデン、そして西のパディントンまでとつながっている。
その運河沿いは、歴史的な趣と静寂さ(車が通らない!)で、ジョギングする人や散歩をする人たちに人気だ。運河沿いをてくてくと歩きながら、運河近くのギャラリー巡りなんていうのも気分転換には悪くない。
そこで、今回は1月に開催された地元イーストロンドンから徒歩圏内で行ける運河沿いエキシビションをいくつかピックアップした。
アーティストスタジオが多いハックニー。工業地帯っぽさがまだ残っている。
スタート地点は、ハックニーのケンブリッジ・ヒース。この辺はアーティストのスタジオも多く、近くにはカフェや美術系の本屋があるなど、まさに「アーティストセントラル」と言われるエリア。その近くにある芸術支援団体「スペース」のギャラリー。1月22日から1ヶ月間開催されたエキシビションは、アメリカの伝説サイケデリック・バンド、デストロイ・オール・モンスターズの回顧展「Hungry For Death」。

「Hungry for Death」展示風景。
トークショー「フリーク・サミット」にて。左から、サヴェッジ・ペンシルのエドウィン・パウンシー、キャリー・ローレン、ジョン・シンクレア。
アメリカのカウンターカルチャー界でかなりリスペクトされるデストロイ・オール・モンスターズの当時のフライヤー、ジン、写真、絵、ポスターなど、その貴重な形跡がギャラリーに所狭しと展示されていた。なんとメンバーのキャリー・ローレンと、詩人であり、ホワイトパンサー党党首、そしてMC5の元マネージャーでもあるジョン・シンクレアがわざわざアメリカから駆けつけ、トークショーまで行われた。デストロイ・オール・モンスターズの成り立ちから当時のデトロイトについてまで、すでにメディアで取り上げられていることの繰り返しだったのかもしれないが、本人たちが当時を語る姿を生で見ることができたのは感激。音楽、アート、政治的思想、幻覚ビジョンなどをゴチャ混ぜに料理して、カタチに残して来た元祖「アートコレクティブ」の存在感を再認識した。
イズリントン。この周辺は都市開発が顕著な所。
お次は、運河を西方面に歩いて20分ほど。団地の多いハックニーの荒っぽい雰囲気がガラっと変わり、都市開発の流れで建てられた新築マンションや、古い倉庫がレノベートされたロフトアパート、カフェやパブなどが現れる。ここはハックニーの西側に隣接したイズリントン。10数年前は今のハックニーのようだったが、昔ながらの公団はどんどん追いやられ、今では30〜50代の高所得者達が住む「ヒップな住宅街」と言われたりもする。
運河から上がってすぐにある通り、ワーフ・ロード(ワーフというのは波止場という意味)に位置するギャラリー、ヴィクトリア・ミロ。数多くあるロンドンのアートギャラリーのなかでも影響力を持ち、一目置かれるギャラリーだ。1月15日〜2月いっぱいまで開催予定の個展は、アメリカの巨匠写真家、ウィリアム・エグルストンによる「21st Century 」。


アート写真界にカラーを取り入れた代表格と言われるだけあって、絶妙な色彩美が空間全体を包んでいた。テネシー州出身でアメリカ南部の日常の写真を多く捉えてきたエグルストン。今回の個展はアメリカ南部のみならず、ロシア、フランス、キューバなど、世界各地の21世紀の日常を、敏感な色彩感覚で表現。車のフロントガラスの洗浄泡がこんなに美しく見えたことはきっとない。1点につき約7000ドルで限定7枚ずつ販売だとか。私はもちろん無理だが、巨匠レベルではお買い得なのかもしれない。
運河ギャラリー巡り最終地点エンジェル。
最後は、1月19日〜23日に開催された、毎年恒例のロンドン・アート・フェア。
運河沿いをさらに15分ほど西へ。同じくイズリントン地区の中心部であるエンジェルのイベント会場で開催されたアート・フェア。100件近くのイギリスのギャラリーが参加する、大規模なトレードショーには、ダミアン・ハーストやピーター・ブレイクなどのビッグネームから、無名の若手アーティストまで、幅広い作者の作品を展示。来場者も様々で、一般客も楽しめるような手頃な価格の作品もある。
ロンドン・アート・フェア会場風景。
「Photo 50」の展示風景。
そのなかでも注目したいのが、会場内の写真セクション「Photo 50」。友人であるフォトグラファーのジェイソン・エヴァンズが参加していたので、それを目当てに行ってみた。
ジェイソン・エヴァンズの作品。
i-DやSHOWstudioなどのファッション関連や、レディオヘッドやフォーテットなどの著名ミュージシャンのジャケット用アートワークを提供したりと活躍しているイメージメーカー。
ファッションだろうが、広告だろうが、どの作品にも共通して見られるのは、彼の究極なまでに繊細な視覚によって見出されたともいえる被写体。また、その被写体を映し出す写真の色、光、そしてフォルム。気鋭なアイデアと実験的なアプローチで写真を通じた新たな表現方法を模索し続けているジェイソン。捨てる寸前だった消耗品を即席でオブジェにし、撮影したという作品5点。その微妙な光使いと、思わず笑ってしまうようなモノのセレクトは、彼のいたずら心あふれる好奇心と美的世界をスパっと表している、気持ちの良い作品だ。
展示の壁はジェイソンの指示により、2種類のグレーのペンキが塗られ、作品を展示する周辺空間までをもグラフィカルな作品として捉えた、彼らしいとしか言いようのない面白い展示だった。
何気ない運河散策が、無限に広がるイマジネーションの世界を次から次へとハシゴすることになるとは。そうこうするうちに春もすぐそこまで来ている(かも!?)。
Posted by:寺島彩子
ロンドン在住。ガスブックシリーズにて3年間海外担当コーディネーター及び編集の経験を経て、2005年に10代を過ごしたロンドンに移住。ビジュアルカルチャー全般の書籍や雑誌向け編集/随筆他、日本のブランド向けのアーティストコーディネーションや展覧会のオーガナイズ等を行う。2009年ハーパーコリンズ及びBNN新社から編著書「Pattern Factory(英)/ Pattern Department(日)」を出版。クリエイティブレーベル「Alakazam」を共同運営。今春から新しいプロジェクト「Cat’s Forehead」を立ち上げる予定。












