Public-image.orgが企画する対談形式のマンスリートークイベント「PUBLIC/IMAGE. SESSION」。去る1月23日、その第1弾企画として、自身初となる作品集「森へ」をリリースしたばかりのイラストレーター黒田潔氏と、今最も注目を集める女性アートディレクターのひとりである吉田ユニ氏によるトークイベントが、PUBLIC/IMAGE.3Dで開催された。黒田氏の作品集の話はもちろん、吉田氏との意外な共通点や物づくりのスタンスなど様々な話が交わされ、大盛況のまま幕を閉じたこのトークイベントの模様を、ダイジェスト版でお届けします。
Text:原田優輝

作品集「森へ」について
まずは黒田さんの初となる作品集『森へ』について教えてください。
黒田:僕はこれまでずっと植物や動物、昆虫などのモチーフを描き続けていたので、本を作るにあたって、それらのすべてが入っている「森」をテーマにしようということを始めに決めました。そこからどういう森を描くか、本に何を込めていくかということを考えた末に、アラスカの森を選んだんです。きっかけは星野道夫さんの写真や本との出会い。そこで見た星野さんによるアラスカの写真や文章、そこから想像される森の風景に魅了されてしまったんです。「じゃあ自分がアラスカに行ったら、どういう体験ができるんだろう?」という思いが今回のスタートになりました。それで、去年の夏にひとりでアラスカに行ったんです。森って緑が美しくて楽しいイメージがありますが、実際に行ってみると、それは想像していた以上の恐怖体験だったんです。
アラスカは完全にひとりで行かれたのですか?
黒田:そうなんです。だから、常に恐怖や孤独感があって…。僕が行った場所は、首都のアンカレッジからはだいぶ離れたシトカという小さな街で、ガイドさんもいないし、ひとりで森に入っていくしかないようなところだったんです。だから、「ここで迷子になったら確実に死ぬだろうな」と思いながら、ひとりでウロウロと森を歩いていましたね。もともと霊感は全然ないのですが、それこそ『もののけ姫』じゃないですけど、何か神々が宿っているような感じとか、得体の知れない霊的なものを感じざるを得なかったですね。今回の本には、そういう体験も込められたかなとは思っています。
黒田潔「森へ」(ピエ・ブックス)
ふたりの共通点
ところで、今回のトークイベントに吉田さんを呼ばれた理由は?
黒田:吉田さんの作品は、彼女が宇宙カントリーに所属している時から知っていて、感覚的に近い部分を感じていたんです。共通のスタイリストやデザイナーさんも結構いたりして、一度ゆっくり話す機会があったのですが、話してみるとやっぱり共通しているところも多くて。だから、今回こういう場で話してみたいなと思って、お願いしたんです。
吉田:私も黒田さんの作品は以前からスゴく好きでした。細かいタッチでリアルに描かれているような絵がもともと好きだというのもあったのですが、黒田さんの作品は、繊細なんだけど力強さもスゴくあって、素敵なイラストだなというのが第一印象でした。私も黒田さんがおっしゃったように共通点のようなものはなんとなく感じています。
黒田:吉田さんも僕もアナログで出来上がるビジュアルにこだわっているところがあると思うんです。今、紙媒体や広告は予算がなくなってきていて、最終のアウトプットがモニター上だったりすることも増えているけど、やっぱり画面サイズなどに左右されない紙で作品を発表したいという思いがあるんです。
吉田:その辺は私もスゴく意識しています。アナログ感は残していきたいですよね。パソコンとかも新しいものがあまり好きじゃなくて、未だにMacのOSは9.2なんです。Illustratorも8.0。結構ビックリされるんですけどね(笑)。でも、新しい機能とかそんなに使わないし、慣れているものがいいですよね。

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黒田:なんかそこは似ているので、ちょっと安心しました(笑)。もうひとつ似ていると感じるのは、ある一定のラインのギリギリのところで作品を作っているところです。線画を描いていてもそうなのですが、どんどん細かく描いてしまいがちなんですよね(笑)。でも、描き込めば描き込むほど良いというわけではない。フォトディレクションなんかにしても、これ以上やってしまうと気持ち悪い方向にいってしまうというラインがあって、その境界線の部分で遊びたいというのが根っこの部分にあります。
吉田:そうですね。私もそのバランスはかなり探っています。作品を常に客観的に見ながら、そのあたりの足し算と引き算というのは、かなりストイックにやっていますね。
黒田:作り始める段階で、最終のイメージというのはどの程度見えているんですか?
吉田:最終的なイメージはいつも明確にあります。逆に明確にイメージがないと動けない。最終型を目指しながら、そのなかでちょっと変化していくことはあるんですが、やりながら作っていくという感じではないですね。作品も伝わりやすくするための工夫を実はかなりやっていて、細かいところまでラフを描いて、自分のイメージを伝えています。
黒田潔「森へ」(ピエ・ブックス)
お互いのフォトディレクション観
吉田:黒田さんがフォトディレクションしている作品もとても好きです。イラストを単に立体化しているのではなく、奥行き感やレイヤーがしっかりありますよね。
黒田:ありがとうございます。今回の作品集を作るにあたっても、写真作品は入れたいと最初から考えていました。以前に、もたいまさこさんと小林聡美さんが出ている「2クール」という番組のポスターを作ったことがあったんです。もともとふたりのファンだったし、そういう流れもあったので、今回もぜひ登場してもらいたくて直談判に行きました。今回は、一冊丸ごと自分の線画が入ってくるわけなので、写真にもそれを詰め込んでいくようなディレクションをしてしまうと、本全体のストーリーを壊してしまうように感じたので、今回はいかに削っていくかというところに重点を置きました。
吉田:本の中にふたりがとても良くハマっていると感じました。モデルさんとは違う役者さんならではの表情や存在感というのがとても良く出ていて、ストーリー性がスゴく増していましたよね。
黒田:今回の撮影はストーリーがあるものだったので、事前にふたりにお伝えしたのですが、それぞれが身体を使ってそれを表現してくれて、プロの人の仕事を見るのは本当に面白いなと感じましたね。
吉田:私が撮影の仕事を好きなのも、現場でモデルさんやスタイリストさん、カメラマンさん、ヘアメイクさんなど関わってくれるスタッフの色んな才能が集まるからというところがあって、その融合する瞬間が楽しいんです。
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撮影スタッフはどのように決めることが多いですか?
吉田:基本的には、自分のテイストに近いカメラマンさんやスタイリストさんなど、イメージを伝えやすい方にお願いすることが多いです。自分の中では、最終のイメージはいつも想像できているんですが、それを理解してもらうのはなかなか難しいので(笑)、どうしても感覚的に理解し合える方になりますね。。
黒田:今回の作品集に関しては、僕の本を作るという気持ちに賛同してくれることが前提だったので、自分がつながっているスタッフにそれぞれお願いしました。普段イラストを描いている時って、本当に孤独な作業なんです。だから、逆に撮影に関しては色んな人と作りたいというのがあって、その両方があるから自分のバランスができている気はします。絵が一人歩きしてくれて、それまでにつながりを持てなかったような人とつながっていくということがとても楽しいんです。
タッチについて
今回の作品集は、これまでのタッチとはだいぶ変わっていますね。入稿ギリギリまで試行錯誤してやっていたようですが。
黒田:そうなんです。すでに決まっているスケジュールの中でいかに試行錯誤していくかという作業を、去年はずっと続けていましたね。まず描いて、次の日にまたそれを見て、さらに描くという繰り返し作業を、学生の時のような感覚で毎日ドキドキしながらやっていました。とても貴重な体験ができたと思います。
吉田:今回の新しいタッチもとても良いなと思いました。いつもとは違う手描きのタッチで奥行き感がよく出ていて、森の広がりともリンクしていると感じました。
黒田潔「森へ」(ピエ・ブックス)
黒田:もともと、デジタルで入稿していたのは、自分の手癖を外したいというのがあったからなんです。あと、原画入稿にすると、印刷の問題でギザっちゃったりすることもあって。最終型のクオリティを保つために、拡大縮小や印刷によってクオリティが左右されないベジェ曲線を使うようになったんです。ただ、今回の作品集に限っては、自分の手から生まれたものを作品にしたいという思いがありました。アラスカに行ったことで、自分が見たものをシャッターを押すような感じで、そのまま絵にするということをやらないと、伝わらないと感じたんです。
吉田:印刷もスゴくキレイだから、思わず触ってしまうような質感がありますよね。鉛筆のタッチがとても繊細に再現されていると感じました。
黒田:ありがとうございます。アラスカに行ったことがタッチにスゴく表れていると言ってくれる人が結構多いんですけど、さっき話した「恐怖体験」とは裏腹に、色や写真が入ることで優しいタッチになっているとか、自分の考えとは違うところで作品を見てくれる人もいて、そういうところは面白いなと感じています。
吉田:恐怖と美しさって隣合わせですもんね。
「装苑」2009年5月号
art direction:Yuni Yoshida, photographs:Muga Miyahara, hair&makeup:Masayoshi Okudaira(CUBE), model:OLGA
日常に潜む恐怖
黒田:そうですよね。前に話をした時に映画の話にもなって、お互いにホラー映画が好きということがわかったんですよね。僕はキューブリックの『シャイニング』が大好きなんです。映像の中に残酷なものと美しいものが隣合わせになっていて、そういう世界観が好きなんです。
吉田:私もあの映画は大好きです。大量の血が廊下を流れてくる場面とかスゴイですよね。
黒田:小学生の時に、あのシーンだけ何かのテレビで見て、とにかく怖くてちゃんと見れられなかったんです。その後しばらくして『シャイニング』を見て、「コレだったんだ」と。未だにこの作品が一番好きだから、感覚って子供の頃から変わらないもんなんだなと思いますね。
吉田:それはありますよね。私も小さい頃からホラーは好きです。あと、映画じゃないんですけど、テレビでやっていた「あなたの知らない世界」とかはビデオ録画するほど好きでした。あれはスゴく秀逸ですよ(笑)。やっぱりリアルなものが好きなんだと思います。「あなたの知らない世界」って、「おもいッきりテレビ」の中でやっていたんですけど、みのさんが元気な感じでやっている後、急にああいう雰囲気になるギャップもまた怖くて。
黒田:日常生活の中に狂気が入り込んだ時の怖さってありますよね。そういう感覚は僕も好きです。
吉田:私はスプラッター系やゾンビものとかB級ホラーも好きなんですけど(笑)、ゾンビが大量に出てくる時より、その前の日常のなかに徐々に(ゾンビが)現れてくる時の恐怖感が一番好きなんです。恐怖の前の静けさってスゴく美しかったりしますよね。
黒田:吉田さんはそういうものを作品にリンクさせることはあるんですか?
吉田:直接的にそういうものを表現したことは今のところないですね。でも、映像的な表現にはとても興味があって、普段グラフィックの仕事をやっている時にも、「この画を動かしたい」と思うことはよくあります。ただ、映像をやると、一秒一秒にこだわりすぎそうで、そこは少し怖いですけど(笑)。

トーク終了後は黒田氏によるサイン会も行われた。
Artist Profile
黒田潔
1975年東京生まれ。イラストレーター/アートディレクター。多摩美術大学大学院美術研究科グラフィックデザイン専攻修了。2003年より独立。新宿サザンビートプロジェクトで2005年グッドデザイン賞受賞。2010年2月より東京都現代美術館「MOTアニュアル2010」参加。2010年3月4日より「@btf」にて個展開催。現在、大阪成蹊大学で客員教授を務めている。
吉田ユニアートディレクター、グラフィックデザイナー。1980年東京生まれ。女子美術大学デザイン科造形計画卒業後、大貫デザイン入社。ラフォーレ原宿や新潮文庫「Yonda?」キャペーン、資生堂「TSUBAKI」のデザインに携わる。2006年より、宇宙カントリーにアートディレクターとして所属。2007年に独立し広告、パッケージ、グッズデザイン、本の装幀等幅広く活動している。











