Public/image.にゆかりのある様々なクリエイター、編集者、ライターなどがコントリビューターとなり、世界各地から旬なクリエイティブ情報を届けてくれる新連載「WORLD CULTURE REPORT」が今月からスタートします。
第1回目となる今回は、世界各地で様々なプロジェクトを進行させるなど、ボーダーレスな活動で国内外から高い評価を得ている建築ユニットassistantの松原慈氏が、昨年訪れたイタリアでの出来事をレポートしてくれました。
Text & Photo:松原慈(assistant)
ミラノ
2008年はフランスの年で4回フランスへ行った。今年はイタリアの年だった、かもしれない。イタリア語をたくさん聞いて、英語が訛った。私の英語は不安定なので、話す相手が変わると、アクセントが訛る。6月はギリシャにいたので、灼熱のギリシャ訛りが伝染ったし、日本語もあやしくて、関西人と話すと、関西訛りが出るくらい、不安定な東京語。結局はムードの問題。
この秋は、「暇」が大好きな私には、忙しかった。小学校の担任だった女の先生が、「忙しい」とは「心が亡い」ことなのよ、と繰り返し10歳の暇人たちを諭していたのを、今でもよく思い出す。そのオールドミスは、理由はわからなかったけれど、ある時疲労困憊して、体調を長く崩していた。「忙しいって、そういうことなのか」と、その時ぼんやりと言葉の意味を理解した。心が亡くなると体も壊れちゃうんだ。関係なさそうなふたつのことは、いつも関わり合う。
10月の終わり、イタリア・ミラノに飛んだ。4月にも訪れていたので、今年2度目のミラノだった。「EMPORIUM - A new common sense of space」という現代美術展の準備のため。もともと4月に開催されるはずの展覧会が、結局半年延期され、11月5日から始まった。会場は、レオナルド・ダ・ヴィンチ博物館という、古くは修道院だった美しい建造物、回廊式の石造り。

日本の作家は、私と、丹羽陽太郎、橋本聡が展覧会に合わせて新たに作品制作をし、木村太陽のユーモラスな掃除機彫刻(等身大の人形の尻の穴に掃除機のチューブが差し込まれているこの作品は、入口に尻を向けた最初の配置から、博物館の意向で向きを変えさせられた)、木村友紀の写真作品、田中功起のビデオや、小沢剛と韓国人のGimhongsok、中国人のChen Shaoxiongによる3人のユニットXi Jin Menの愉快なパフォーマンスを記録した写真とビデオが持ち込まれた。韓国のYeondoo Jungによる84分のダイナミックなフィルムや、中国のNi HaifengがArrow Factoryのために制作したエルメスのドレスのコピーなどが集まって、移動式遊園地のよう。
「27」という数は多くて、作品展示準備の間、次から次へとクレートが運び込まれる。私の作品はスライドで、ややこしくはないのだけれど、あふれる荷物のすき間をくぐり抜けて、テストにたどり着くのにも時間がかかる。

4月に過ごした晴れ晴れとしたミラノに比べて、11月は、寒く、たまたま雨も多く、私の小指の爪も剥がれ、橋本さんの手からは血がしたたり落ち、ちょっと様子が違った。でも、準備ってそういうもの。忙しい時は体もどんどん壊れていってしまうのだ(『鶴の恩返し』で習った)。
オープンを迎えると、どの作品も、観客にすました顔を向けているけれど。

Photo: Museo Nazionale della Scienza e della Tecnologia Leonardo da Vinci
日本、中国、韓国から、色とりどり作品が並べられて、まるで、リトル・ビエンナーレ・オブ・アジアン・アート。「コンテンポラリー・アジアン・アート」なんていうものがあったかと錯覚するような。
ところで、昔ミラノの友人の子どもに好物を聞いたら、「クッキー」のクロワッサンと言った。それ以来、ミラノに行くと、ひと休みに必ず寄るのは「クッキー」。「CUCCHI」と書く歴史の長いこのカフェには、いつもミラノで一番おいしいクロワッサンの匂いが充満している。給仕はアイロンのきいたシャツを着こなし、コーヒーは適度にぬるく、季節に合わせてお菓子を使ったちょっとした面白いウィンドウが作られたりもしていて、交差点の角にある。
このカフェの前にあるキオスクは、ミラノで一番のセレクションの雑誌売場だと、その子どもの父親が教えてくれた。冗談だと思ったが、実際、たいがいの雑誌はみんな本屋でなくキオスクで買う。そして、イタリアでは、時に付録でフライパンがついてきたりする。

ヨーロッパでドキっとする瞬間は、古くて落ち着いた街並に隠れて、小さなすき間にユーモアが潜入しているのを見つける時。たとえば、街角のお菓子が、こんな感じ。

ちなみに、4月にミラノを訪れた時は、展覧会が延期したせいで、それなりの時間を持て余していた。観光らしいこともした。たとえば、Paviaという町に連れて行ってもらって、ワイン畑を観察したり、PACという誰かのお家のような美しい美術館で午後を過ごしたり。PACでは、彫刻は空間や差し込む光に溶け込んでいるので、あなたとの距離はとても近い。


ヴェニス
ミラノから高速列車で2時間ほど行くと、ヴェニスに着く。準備が本格的になる前、ヴェニス・ビエンナーレを訪ねに、一泊だけミラノを抜け出した。
車窓の田園風景が、急に海に変わる。サンタルチア駅で列車を降りて、水上バス。最寄りの船着き場から会場へ向かう道すがら、最初に目を奪われるのは、洗濯物。



ヴェニスの景色は、いつ来ても変わらないけど、季節はすっかり冬の始まり。冬に訪ねるのは初めてだ。
ビエンナーレは6月に始まるので、11月に訪ねるのは、どちらかというと季節外れ。今年私が訪ねた週末は、会期もほとんど終わりに近い。でも、季節外れの観光地というのが、私は好きだ。ビエンナーレの様相も、人が少なくて、季節外れで、作品も少し草臥れて感慨深い。一方、今年のビエンナーレと同時期にオープンしたPunta della Dogana Museumというピノーの美術館は新しいけれど、ヴェニスの見慣れた景色を不思議な角度で切り取る。

Giardini, Palazzo delle Esposizioni, Nathalie Djurberg’s piece’s shadow

Giardini, Palazzo delle Esposizioni, Richard Wentworth

Punta della Dogana Museum

Punta della Dogana Museum
ヴェニスから翻す直前、立ち寄ったシンガポール・パビリオンで、ミン・ウォンに遭遇する。ミンはベルリンに住むシンガポール出身の友人。知り合った時は、ひとりで全役演じるソープ・オペラを作っていた。今回のビエンナーレでは、シンガポールを代表し、建物をまるで古い劇場のように使い切って、彼の親密で奇妙な映像を、悪趣味ギリギリのキッチュなユーモアで見せていて秀逸だ。再会を喜べたのはほんの数十分で、私の帰りの列車の時間が容赦なく迫る。ヴェニスへの旅というのは、たいがいの人にとって忙しいものみたいだ。滞在の平均時間は24時間だというから。
帰ってくると、なかなか気まぐれな秋。冬が休暇を取ったのかと思うような東京の天気。

Singapore Pavilion, Ming Wong
Information
assistantが展覧会設計を手がけた「おいしく、食べる’の科学展」が3月22日まで、日本科学未来館で開催中。また、2月14日まで青森県立美術館で開催されている企画展「ラブラブショー」に合せて、インスタレーション&ワークショップも行っている。詳細はこちらから。
Posted by:松原 慈(assistant)
1977年生まれ。建築家。2004年ロンドン大学バートレット建築学校MA修了。assistant共同主宰。表現活動の幅は、静的な建築から、つかの間の状況まで多岐にわたり、空間造形、彫刻、音楽、文章、建築、都市研究などの分野で複合的に観察できる。 2009年11月には、個人作品でミラノおよびソウルにて現代美術グループ展に参加。また、assistantが展覧会設計を手がけた大型企画展が日本科学未来館で始まる。12月には青森県立美術館にてインスタレーションおよびワークショップの予定。












