独自の線画イラストレーションを武器に、様々なメディアで活躍するアーティスト/イラストレーター黒田潔。Public/imageとも親交の深い彼が、2010年初頭に、作品集の出版ならびに東京都現代美術館で開催されるグループ展「MOTアニュアル2010」へ参加することが決定!! そこで、Public/imageでは、年明けに向けた短期連載企画として、黒田氏に密着し、作品集/展覧会ができるまでを追いかけていきます。
今回は、作品集『森へ』のアートディレクションを担当した大島依提亜氏との対談。作品集の入稿を終え、一段落していたおふたりに、作品集制作の舞台裏などについて、色々と振り返って頂きました。

ーまずは、作品集のアートディレクションを大島さんにお願いすることになったきっかけから教えてください。
黒田:大島さんと初めて仕事でご一緒したのは、「2クール」というテレビ番組の仕事で、その縁で一昨年の年末にご飯を食べに行ったんです。そこで、来年は作品集を出したいという話をして。でも、その段階では正式にデザインをお願いするというよりは、自分が考えていることを話す程度でした。その席で旅の話題も出たのですが、そこで依提亜さんがアラスカに行ったことがあるという話を聞いて。すでに自分のなかで森などに行って感じてきたものを描いてみたいという漠然とした思いがあったので、そのアラスカの体験がスゴく魅力的に感じられたんです。
大島:僕もそこで「行きなよ」と煽ったんです(笑)。もともと、人にそういうことを薦めるのが好きなんですけど、本当に行く人はなかなかいないので、実際に行くと聞いた時はビックリしましたね(笑)。ただ、これまでの作品を見ていて、黒田さんならアラスカに興味を持ってくれるだろうとは思っていました。
黒田:自分がシベリアやアラスカなどの寒い地域の動物や植物を描いているという自覚は全然ありませんでした。でも、白夜の森を歩いていてムースに出くわしたり、森を進んで行くと突然平原が現れたりという話を聞いて、その映像がスグにイメージできたんです。どこか非現実的な世界というか。それから、星野道夫さんの本を読んだりしているうちに、アラスカへの思いがどんどん膨らんでいきました。今回の作品集は、そこから始まったところが大きいですね。

ー大島さんに正式にアートディレクションを依頼したのはどのタイミングだったのですか?
黒田:アラスカに行ったのが昨年の6月末から7月にかけてだったんですが、その直前に出版社が決まった段階で正式にお願いをしました。
大島:その段階でラフや台割を見せてもらったんですが、すでに雰囲気はほぼ固まっていましたね。アーティストブックのアートディレクションには、作家さんの方でかなりキッチリとした計画があって、それを現実化するために調整していく役割を担うケースと、素材だけ渡されて、こっちで構成まで考えていくようなケースの二通りがあるんです。今回は、黒田さんにかなり明確な方向性を示してもらえたので、そのイメージを100%表現できるようにアシストするという立ち位置で臨みました。
黒田:今回は、まず僕が台割やラフを描かないことには、依提亜さんをはじめ関わってくれている人たちがイメージしにくいだろうなと思っていたので、台割を描き直してはそれを皆で共有するという作業を何度も繰り返していきました。
大島:それが毎回スゴイ精度なんですよ。作業が進んでいくにつれて、タッチがどんどん変化していきましたよね。本当に模索しながらやっているんだなというのが伝わってきました。

黒田:本にするということで、自分なりに新しい表現を模索しながらやっていこうという思いがあったので、タッチも常に流動的に変わっていきましたね。
大島:アラスカに行った影響が、タッチに一番現れているなと感じました。線画で表現できないようなものも多かったと思うし、とても「画」的になりましたよね。
黒田:それまでは写真や本を見ながら素材を描いて、それをPC上で再構成していくという手法だったんです。だから、今回のように実際に見てきたものをそのまま絵にするということはあまりしていなかった。でも、今回はそういう描き方をしないと伝わらないだろうと思ったんです。
大島:普通だったら、アラスカに行ったという経験がまず前提にあって、それを人に伝えたいという思いで本を作るという流れだと思うんです。でも、今回はアラスカに行く前から企画が決まっていて、そういうところが黒田さんっぽくて面白いなと感じました。
ー制作段階ではスタッフ間でどのようなやり取りがあったのですか??
黒田:今回は、あらゆることをスタッフみんなで話し合いながら決めていきました。撮影の時なんかも、依提亜さんとカメラマンの羽田誠さんとで話し合いながら決めていった部分が大きかったです。もちろん、元になるのは僕の台割なんですが、そこに色んな人が入ってきてくれることで、どんどん内容が絞り込まれていった感じはありました。単にイラストレーター黒田潔の作品集というだけではなく、もっと間口を広げて、色んな方向から入ってきてもらえる本にしたいと思っていたので、みんなに客観的に見てもらった上で、意見を取り入れながら作っていきました。
黒田潔『森へ』 (ピエ・ブックス) (C)2010 Kiyoshi Kuroda / PIE BOOKS
大島:撮影に関しては、例えば「2クール」の時は1枚のプロップを作るだけでも1日がかりだったのに、今回はカット数もはるかに多かったし、どこまでできるのかなという不安が正直ありました。でも、事前に打ち合わせを重ねて、台割をしっかり作り込んで臨めたことが、今回の成功につながったんだと思います。
黒田:「2クール」の時は、前日にセット等を仕込むことができたんですが、今回はそれができないということだったので、いつもとは考え方を変えて、引き算の方向でやっていかないとダメだなというのはありましたね。
大島:写真のパートに関しては、黒田さんのイラストの要素はいつもより少ないですよね。
黒田:イラストレーターが撮影ものをやるとなると、イラストのレイヤーを重ねていくような表現しかできないと思われがちなんですが、そういうイメージを崩したいんです。特に今回の本は、原画もたくさん入ってくるわけだから、写真のパートもそっちと同じようになってしまったら、お腹いっぱいになってしまうだろうと思ったんです。もたいまさこさんや小林聡美さんがモデルに入ってもらえるということもあったし、イラストだけにこだわらずに、うまく空間を作っていきたいと考えていました。
大島:「2クール」の時とは違って、今回は黒田さんの世界観の中に、もたいさんと小林さんを入れることができるせっかくのチャンスだったので、ふたりにはいつもよりシリアスな表情でやってほしいというお願いなんかもしましたね。
黒田:ふたりをどれだけ自分の世界に引き込むことができるかというのは僕も試したかったことで、そういうことも意識しながら台割を描いていたところがありました。それに対してのおふたりからのNGも特になく、自然な流れで撮影までこぎつけられたのはうれしかったですね。

実際に本を作っていく過程についても教えてください。
大島:黒田さんから出来上がった原画が僕の方に届いてくるのですが、すでにその段階でバッチリ本のサイズにトリミングされていたので、僕の方ではページの流れを確認しながら、メリハリを意識してそれらを入れていく作業が主でしたね。写真集なんかでもそうなのですが、そういうところをシビアに調整していく作業というのが、個人的には一番好きですね。
黒田:紙や印刷の部分に関しては、依提亜さんがスゴく豊富な知識を持っているので、色々提案をもらったりしながら、複数の紙質、印刷を取り入れていきました。
大島:今回の作品集には、「昼の森」と「夜の森」の2パートがあるのですが、夜の部分は、マットスミの1色印刷にしようという話になったんです。ただ、台割の関係上、多少ページ構成を変えてもらわざるえないところがあったので、黒田さんにコンテを切り直してもらいました。それも、さっきのアラスカに行く順序の話と同じで、紙と印刷が決まってから描いてもらうという流れは、通常とは逆なんですよね。

黒田:そうですね(笑)。1色の部分は他と見せ方を変えたいと思っていたので、紙や印刷がどうなるかを確認した上で、鉛筆の硬さを変えてみたり、いかに質感を出すかということを自分なりに調整していきました。他のページの印刷に関しても、かなり早い段階でテストプリントを出してもらって、自分のタッチがどこまで表現されるのかを確認しました。そこで、原画を描く紙のサイズを変えたり、描き込みの量をさらに増やしたりということを調整をすることができました。
大島:表紙も、先にスペックを決めてから、それに合わせて黒田さんに描いてもらいました。作品集の場合、すでに描いているものを渡されて、その中で構成していくというパターンもあるので、今回のようなケースは珍しいですよね。そういう意味で、本当に一緒に作っていく感じはありました。でも、僕が黒田さんの立場だったら、描くことに集中させてよと思っちゃう気がする(笑)。
ー表紙については、黒田さんにどのようなオーダーをされたのですか?
大島:最初は、半透明のカバーをつけて、そこに森の絵があって、その背後になる本表紙の方に動物が潜んでいるというような重層的な作りをイメージしていたんです。ただ、その紙が使えるかどうかのジャッジに時間がかかってしまい、しかも最終的には使えなくなってしまったのですが、黒田さんはどちらにも対応できるような感じで上げてくれました。さらに、表紙に関して言うと、今回僕が唯一仕事をしたかなというところが、このタイトルなんです(笑)。今回一番黒田さんの作品に侵食する部分だったので、スゴくはまっちゃいましたね。

黒田:ロゴのバリエーションは他にもいくつか出して頂きました。それらを実寸でプリントアウトしたり、デジカメで撮ったりして色々考えたんですが、最初にこれだなと思ったものを選ばせてもらいました。文字だけを見ると、どれも魅力的なのですが、自分のタッチに一番ハマったのがこのロゴだったんです。あと、手に取る人が自然に入っていけるような伝わりやすさ、キャッチーさというのも意識はしていましたね。
ー最後に、作品集制作が終わった今の気持ちを教えてください。
黒田:入稿は終わったけど、本当に形になってみんなに見てもらうのはもう少し先だし、自分の子どもがこれから育っていくみたいな気持ちです(笑)。これまで僕の絵とまったく接点のなかった人にも届けていけるというのが、本にすることの大きな楽しみなので、これから広がっていってくれればという思いですね。

Information
黒田潔ヴィジュアルストーリーブック『森へ』(ピエ・ブックス/2,940円)は、1月15日リリース。
(C)2010 Kiyoshi Kuroda / PIE BOOKS

Creator Profile
大島依提亜1968年栃木県生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。映画、展覧会のグラフィックを中心に、ファッションカタログ、ブックデザインなどを手がける。最近の仕事に映画『プール』『曲がれ!スプーン』『ウディ・アレンの夢と犯罪』、美術展「鴻池朋子展」、CDジャケット「つじあやの/つじギフト」など。
Posted by:黒田潔
1975年東京生まれ。イラストレーター/アートディレクター。多摩美術大学大学院美術研究科グラフィックデザイン専攻修了。2003年より独立。新宿サザンビートプロジェクトで2005年グッドデザイン賞受賞。2010年2月より東京都現代美術館「MOTマニュアル2010」参加。2010年3月4日より「@btf」にて個展開催。現在、大阪成蹊大学で客員教授を務めている。
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E-Mail:komatsu@shigotoba.com(マネジメント:小松香代子)












