写真家・植本一子氏と、ライター南波一海氏が、毎回気になるクリエイターの仕事場に突撃する連載コラム「お忙しいところ失礼します。」。
今回は、音楽家・蓮沼執太氏の自宅兼スタジオ。「うちは西陽が綺麗ですよ」ということなので、いつもよりも少し遅い時間に集合。なるほど、部屋の三辺に窓があって、各所から光が差す気持ちの良い部屋である。非常に彼らしい明るい場所だ、と感じた。この取材を始めて5回目になるが、作業場はその人の性格が本当に出るんだなとつくづく思う……ともかく、この部屋と、ライヴ盤でありライヴ盤でない最新作『wannapunch!』には切っても切れない関係があった。
Photo:植本一子
Text:南波一海

「ライヴ盤でありライヴ盤でない」なんて言葉遊びみたいなことを書いたのは他でもない、本当にそうとしか言えないからだ。『wannapunch!』が作られた経緯はこうである。まずはライヴ会場をレコーディング・スタジオに見立て、バンド編成での演奏はもちろん、会場で起きたあらゆる音を可能な限り録音。それら音素材をこの部屋へと持ち帰る。その素材を用い、一般的なライヴ盤のようにライヴを擬似的に再現するのではなく、必要とあらばさらに音を加え、入念なミックス作業を経た上で完成に至った。
「そういう意味ではこれまでの(宅録で作った)アルバムと同じです」
音の出所、音を出した人間こそ違うが、それを自宅のパソコンで扱って音楽を作り上げるという点においては全く変わらないということである。だから本作はライヴ盤であり、ライヴ盤ではない。そしてこの部屋は、ポスト・プロダクションを施すためのミキシング・スタジオとして非常に重要な役割を果たしているのだ。
また、アルバムが出来上がる上で、この部屋はもうひとつ重要な役割を担っている。なんと、バンドのメンバーがここに集まってリハーサルをするのだという。
「ここでやってるんですよ。大変でしょ(笑)? 狭いスタジオだとモニター環境が良くないから、自分の音もお互いの音もよくわからなくて。お金もかかるし。あとはシンセの問題もある。いつも使ってる鍵盤(コルグのトライトン)が置いてないから。何より、ここで小さめの音で出して、お互いの音を聴いて、呼吸を確認しながら演奏できるのが良いので」
バンドの緻密なアンサンブルと、そこから生み出される肉体的なダイナミズムは、この、決して広いとは言えない部屋で築き上げられていった。
そのひとつの成果が『wannapunch!』ということになる。ライヴと宅録との間を自由に行き来するこの不思議な作品は、この部屋なくしては完成の形を見ることはなかった、あるいは別の形になっていたのかもしれない。

手製の机には、メインPCであるiMacやその他機材、書籍が乗る。「机というか、ただの板を乗っけただけです(笑)。越してきた時に大きな机が欲しかったんですけど売っていなかったので、自分で作りました」

(左)10年前に初めて自分で買ったコルグのトライトンは未だ現役。ライヴにも録音にも使い続けている。(右)カラフルなカナレのケーブル。「今はバンドでライヴやってますけど、ひとりでラップトップでライヴしていた時にパラで出していて。パラで出した方が音が良いし、見分けやすいので」
Favorite Item

フェンダー・ローズ。「『wannapunch!』でほんのちょっとだけ使いました。ちょっと変わっていて、普通はアンプから音を出すんですけど、これはラインで録れるように改造してあるんです」
周囲には楽器やマイクスタンドが。下にはMPC2000XLが鎮座。
アクリル絵具で書かれた壁画は、新鋭の画家・近藤恵介によるもの。この壁画の写真は前作の『ポップ・オーガ』のアートワークで使われている。「日本画っていうのは、壁に書くのは本来普通のことで。ジャケットのミーティングをした時、スキャンするよりも、直接壁に書いてもらって、それを写真で撮る方が面白いんじゃないかってことになって」


Information
蓮沼執太氏の最新アルバム『wannapunch!』は、HEADZより発売中。

Creator Profile
蓮沼執太音楽家。1983年東京都生まれ。2006年アメリカWesternVinylよりデビュー。ライヴ・パフォーマンスでは、〝蓮沼執太チーム〟として活動中。ポッドキャスト番組「ウインドアンドウインドウズ」ではパーソナリティ/ディレクションを務める。最新作、ライヴ・アルバム『wannapunch!』が2010年1月1日にリリース。アルバム発売を記念して、ツアー公演を開催。1/22(金)名古屋今池TOKUZO、1/24(日)京都Club METRO、2/14(日)EATS and MEETS Cay (Spiral B1F)
ツアー情報はこちらから。
Posted by:植本一子
84年広島県生まれ。写真家。02年、高校生の生活フォトコンテスト受賞。03年、日本写真芸術専門学校在学中に、キャノン写真新世紀で、審査員の荒木経惟氏らから賞賛を受け、優秀賞を受賞する。2009年11月よりA/M所属。
南波一海
ライターなど。音楽誌『ヒアホン』編集の他、各専門誌で音楽や映画などについて執筆中。
近況:『ヒアホン』3号発売記念でインストア・イベントやります。佐々木敦さんとのトークショーです。1月9日14時より、タワーレコード新宿店7Fイベントスペースにて。それと、蓮沼執太チームのレコ発イベントでライヴします。1月22日、名古屋・今池 TOKUZOにて。京都も行くかも? 詳細はこちらで。ポッドキャスト『ウィンドアンドウィンドウズ』も聴いてみて下さい。













