写真家・植本一子氏と、ライター南波一海氏が、毎回気になるクリエイターの仕事場に突撃する連載コラム「お忙しいところ失礼します。」。
今回の訪問先は漫画家・今日マチ子氏のアトリエ。ほぼ毎日アップされている『センネン画報』は言うに及ばず、『みかこさん』、『ミドリさん』、『0時限』、『七夕委員』などなど、とにかく尋常とは思えないおびただしい仕事量(その多くはWeb上で読むことが出来る)をこなす先生の仕事場は、一体どんなカオス状態になっているのだろうか……。
なんていうのはこちらの全くの杞憂で、多くの人が抱くであろう漫画家のイメージを根底から覆すような、テレビドラマのセット級(?)の、はっきり言って“お洒落な”空間が待ち受けていた。
Photo:植本一子
Text:南波一海

「打ち合わせとか原稿の受け渡しの便利な都心に。それと締め切り前にずっと部屋に閉じ篭っていたり、あまりにつらそうな顔してると親が心配してしまうので」との理由から、今年の春ここに越してきたという。
「色々探しててずっと決められなかったんですけど、ここは一目で気に入ってすぐ決めました。猫を飼いたかったので、ペットOKで、あと消しゴムのカスとかが散らばるので汚して良い部屋ということで」
とはいえ、まるで汚れていないこの部屋。どこまでも整然とされている一方で、家具や植物など、女性らしい美意識が貫かれたこの空間は、およそ漫画家の戦場とは思えない。
「花とか生けてる場合じゃないだろって感じですよね(笑)。カレンダー見るとわりとギチギチだったりするんですけど」
彼女の話を聞いていると、例えば花を生けることと、日々の膨大な仕事量をこなすのは、必ずしも矛盾した行動ではないということが見えてくる。基本的に一日中ずっと座りっぱなしの過酷なスケジュールをこなすために、この部屋の美しさが保たれているとも言えると思うのだ。それは、「喫茶店とかで考えたりする漫画家さんもいますけど、私の場合は自分の好きな空間で仕事したいので」という発言に集約されている。仕事に打ち込めるお気に入りの環境があってこそのハードワーク。私も見習いたいものです(ホントに……)。
矛盾に見えて実は理に適っていると言えば、仕事の順序。
「本当は締め切り順にやらないといけないんですけど、好きなものからやったりします。そこで勢いをつけてからお仕事に移っていくという」
ここで言う“好きなもの”とは、日々更新される『センネン画報』のこと。誰に頼まれるでもなく次々とアップされていく漫画は、受け手側の私たちが楽しむだけでなく本人のモチベーションアップにもつながっているというわけだ。それにしても、どうしてこのペースで描き続けられるのかがどうしても気になってしまう。
「私も謎なんですけど(笑)。無理矢理やってます。基本的には(話を)ストックしないので、その日に思い付いたのを。これから二時間くらいで描くぞって決めて。行き当たりばったりです。お仕事の方も行き当たりばったりですけど(笑)」

植物のレイアウトが彩りを添える、シンプルで美しい仕事部屋(本当にキレイ!)。隣が空き地のため、一日を通じて陽が差している。

作業机。デスクライトには至言「マンガ家最高!!」(©しりあがり寿)。そして、隅には箱に敷き詰められたCOPIC。このカラーペンが、マチ子先生独自の“空気”を演出しているのは間違いない。「上手くやると水彩画っぽくできる。実際に水彩でやると時間がかかるので。淡い色を重ねて使うことが多いです」

Favorite Tools
カメラGR DIGITAL。「お気に入りというより必需品です。背景とか用に。もう3台目で。“GR遠足部”というのを主宰していて。10人くらい集まって、2時間くらいただ撮って歩くっていう部活をやってます。後々使えることがあるので、月一くらいで撮りに行ってます。あと一人で撮るのも寂しいというのもあって(笑)」
陶器の置物。特に中央の男女ペアのオブジェがお気に入り。「モチーフで、男の子と女の子がペアになっているのを描くのが好きで。ベトナムの陶器工房みたいなところに行った時に、端っこに投げ売っていて。これは可愛いと思って買ってきました。二人で完全体で、お互い一人の時は寂しい、みたいな感じが好きです」

この連載が始まって以来、3回連続で登場の猫(右)。「突発的に飼ってしまいました。ずっと一人で仕事してるので、ラジオに突っ込んだりしていて悲しい人みたいで、“もうダメだ〜”と。アシスタント入れない替わりじゃないですけど。わりとおとなしくて、仕事に集中してる時は寝てくれてます」
Information
「みかこさん」第1巻(講談社)、「100番めの羊」(廣済堂出版)が、10月23日に同時発売。それを記念して、10月31日13:30〜有隣堂アトレ恵比寿店で、今日マチ子氏のサイン会が開催される。

Creator Profile
今日マチ子漫画家、イラストレーター。東京都出身。東京藝術大学美術学部卒。セツ・モードセミナー卒。2005年「ほぼ日マンガ大賞」入賞、2006年、2007年文化庁メディア芸術祭「審査委員会推薦作品」を2年連続で受賞。著書に『みかこさん』(講談社)、『100番めの羊』(廣済堂出版)、『センネン画報』(太田出版)、『セキ☆ララ中学受験』(みくに出版)など。現在の主な連載は『みかこさん』(講談社)、『COCOON』(エレガンスイブ)、『ミドリさん』(三井住友銀行)、『0時限』(別冊文藝春秋)、『100番めの羊』(廣済堂出版)など。ブログ「今日マチ子のセンネン画報」もほぼ毎日更新中。また、『センネン画報』のiPhoneアプリ版が登場!オールカラー傑作選に、描き下ろし&作者自身による解説付き。詳しくはiTunes Storeへ。
Posted by:植本一子
84年広島県生まれ。写真家。02年、高校生の生活フォトコンテスト受賞。03年、日本写真芸術専門学校在学中に、キャノン写真新世紀で、審査員の荒木経惟氏らから賞賛を受け、優秀賞を受賞する。2009年11月よりA/M所属。

Exhibition Information
植本一子 Exhibition 「only you」
会期:2009年11月27日(金)〜 12月13日(日)月曜定休
オープニングレセプション:11月27日(金)19:00-22:00
会場:「PUBLIC/IMAGE.3D」
東京都世田谷区池尻2-32-2 デパール池尻ビル1階
南波一海
ライターなど。音楽誌『ヒアホン』編集の他、各専門誌で音楽や映画などについて執筆中。近況:WARPの新星、HUDSON MOHAWKEのデビュー・アルバム『バター』のライナー書きました。『ヒアホン』3号、もうすぐ出ます。WEATHERレーベルのポッドキャスト『ウィンドアンドウィンドウズ』やコミュニティFMで毎月喋ってます。











