5月16日に開催されたカンファレンスイベント 「PUBLIC/IMAGE.METHOD」。「Public-image.org」では、カンファレンスで行われた5つのセッションのダイジェストを、5回に分けてお届けします。
第4回目となる今回は、世界的な映像ディレクター辻川幸一郎が、Web業界から注目を集めるクリエイティブディレクター伊藤直樹に、これからのWebにおける映像の可能性を問いかけるセッション。辻川、伊藤の両者が手がけた作品に加え、伊藤のセレクトによるいくつかのWebサイトを見ながら、映像とWebの未来像が語られていった。インタラクティブな世界における、演出という制限のあり方から、新たなコラボレーションへの構想まで、数々のアイデアが飛び交う場となった。
Text:笠原桐子
Photo:竹林省悟

(左)辻川幸一郎氏、(右)伊藤直樹氏。
辻川:僕はあまりWebに詳しくないので、伊藤さんにWebと映像の面白いものを教えてもらいたいと思っています。それで「何か一緒にやれたらいいですね」ということで。まず、今見てもらっているのは、最近僕が作ったミュージックビデオです。低予算の時によくやるような方法なんですが、ものすごい高解像度でコマ撮りした写真を映像化して、あとで寄ったり引いたりしています。高解像度を利用して、どこまでも寄れる映像を作った感じですね。
『pulling from above ~JICKBEATS Version~』mi-gu
『Like A Rolling Stone』CORNELIUS
伊藤:これは辻川さんが演出家として設計した感じですよね。ここにインタラクティブ性を加える時、こちら側がどう演出として見せればいいかを僕はスゴく悩むんです。気持ちいい体験をしてもらうためには、どこでも自由に寄れればいいというものでもない。もし辻川さんがインタラクティブな映像を作っていくことになったら、演出のしどころと任意性について、どう考えますか?
辻川:インタラクティブということに対して、仕事としてどれだけうまく制限、誘導して、気持ちいい状態に持っていけるかですね。一番原始的なパターンというのは、普通に映像を流すことだと思うんですよ。それもWebの原点のひとつで、編集という作業をこちらが受け持ってるという意味では、スゴい制限をかけている。人はその状態が気持ちいいんですよね。Webは無限なだけに、制限のセンスというのが、すごく重要になってくるのでは。
伊藤:僕もそれは大事な話だと思います。制限のかけ方にこそ、妙技があるんじゃないかと。

辻川:今後Webで映像が面白くなっていくとしたら、どういうことがあるのか気になります。何か面白いものを見せてもらえますか?
伊藤:この「HBO Voyeur」は1年半くらい前の作品で、HBOというアメリカの有料テレビ局の、ある番組シリーズのプロモーションサイトです。加入プロモーションの一環として、シリーズのストーリーを疑似再現している無料版ということになります。ビルがスケルトンになっていて、1つひとつの部屋の中が、この映像のコンポーネントになっているわけですよね。ヒッチコックの『裏窓』のような覗き見の感覚なんです。部屋ごとの映像をひとつのモジュールとして考えるならば、バラバラのそれを再構築して、プレゼンテーションしている。そのマスターピースなんじゃないかなと思ったんですね。こんな映像の体験は、今までないなって。


『HBO Voyeur』
辻川:僕は今日初めて拝見したんですけど、これはまさに、時間軸がなく、インタラクティブ性を使って見る映像ですよね。これで、部屋の中にいる人が持っている新聞の記事が見えるディテールまであったら、自分が神様になったような感覚が味わえますよね。これは本当に面白い。こういうのやりましょうよ。どこか「シムシティ」に近いところもありますね。
伊藤:影響は受けているでしょうね。僕は、ニューヨークのランドスケープの本質が出ていると思うんですよね。ビルの窓のモジュール感や、ニューヨークの圧倒的なランドスケープをこうやって表現されると「ああ、ありがとう!」って感じです。ただ、これは予算が日本と1ケタも2ケタも違って、10億円近くかかってるような気がするんですよ。とてもじゃないけど撮れないですね。
辻川:じゃあ僕らは、一部屋の中で寄ったり引いたりしましょうよ。そのくらいだったらいけるんじゃないですか。もっと局地的な神様視点なら(笑)。
伊藤:「神様視点」って面白いですね。僕ら日本の作り手は撮影にお金はかけられないでしょう? そういう時には、テーブルの上とか、手だけとか、足だけとか、そういう絵作りが多くなりますよね。辻川さんも身体の一部に寄っている作品が多いと思いますが、それはやはり低予算時代を経て、工夫の中で生まれてきたものなのですか? それとも違う思考で生み出してきたものなのでしょうか?

辻川:基本的には両方ですが、まずは予算ですよね。本当にびっくりするくらい予算がない。予算がないと、人ってやっぱり手を見るんですよ(会場笑)。じっと手を見る(笑)。本当に「働けど……」みたいな。手を見て、動かしてみて、そのまま作ったプロモーションビデオもありますね。
伊藤:その話聞けてよかったですねー(会場笑)。そうじゃないって言われたらどうしようかと思いました。
辻川:いやいや、制限があって初めてできるということもあるので。デジカメを使って低予算で作るなら、部屋を真上から見る程度のセットにして、デジカメを10台くらい使って寄りの映像を撮っていけば、さっきのサイトみたいなことができるんじゃないですかね。僕らは、ちっちゃなところに寄る面白さを追求しましょうよ。無意味なものに寄れるというか、例えば下駄箱の靴の中に、なにかヒントが隠されてる的なことを…。
(会場笑)
伊藤:今色々動いているものがあるので、ぜひ何かで一緒にやれたらいいですよね。

スクリーンに投影されている作品は、伊藤氏が先日手掛けた「UNIQLO MARCH」。作品の詳細はこちらから。
伊藤:ところで、辻川さんは部屋でブルーレイディスクをプロジェクターに映して見ていると聞いて、僕はスゴい腑に落ちたんです。その辺は素直になりたいなと思いますね。PCの画面で見るものに満足しているかというと、まだまだやっぱりだと思うし。ブルーレイディスクをプロジェクターに映して部屋で見てるくらいが、たぶん気持ちいいのかなって。
辻川:解像度に対して、それに向く感覚ってやっぱり違うと思うんですよ。ブルーレイのDVDをいいテレビで見ると、見えすぎて結構がっかりするんですよ。特撮のアラが見えすぎるので。プロジェクターに映すとちょうどそれが甘くなって、しかも画面がデカい。大きいというのもひとつの画質だし、逆に小さいというのもひとつの画質。僕はこういう仕事をしているので画質がスゴく気になるんです。
ただ、実は最近、視力がそもそも悪いということがわかって…。入力の画質がスゴく悪いから、何の意味もないんじゃないか? と。 ここ(目)の解像度が全然上がってこないんです。
(会場笑)
Artist Profile

辻川幸一郎
1993年よりデザイナーとして活動開始。コーネリアスの映像制作をきっかけに映像ディレクターとして活動。アートディレクション、CM、MV、ショートムービーなど、多様なジャンルの制作に取り組んでいる。
また、SMIRNOFF、COMCASTなどのCMやカナダのクリエイティブ誌『boards magazine』の表紙デザインなど、海外へも活動の幅を広げている。

伊藤直樹
クリエイティブディレクター。GT所属。TVCMからWEB、インスタレーション、までメディアにとらわれない企画とデザインを得意とする。
NYADC会員。ここ2年で、カンヌ、NYADCなど60以上の海外賞を受賞。ロンドン、台北、ストックホルムなどにゲストスピーカーとして招待されるなど、海外での評価が高い。代表作として、『LOVE DISTANCE』、『BIG SHADOW』、『UNIQLO MARCH』など。
カンヌ、D&AD、ONE SHOWなど国際審査員も歴任。













