プーちゃんが死んでもう3週間が経った。
新しい部屋に引っ越して、猫たちと暮らせるようになってから26日目のことだった。
Text:ECD
Photo:植本一子

プーちゃんが新しい部屋に慣れるのは早かった。いちこが食事の支度のために台所に立つと、プーちゃんはいちこの足下にまとわりついて離れなかった。そして、食事が始まってもテーブルの下で何かくれるのを待っている。もう一匹のターちゃんは、人が食べるものにほとんど興味を示さないのだが、プーちゃんは違った。
元々プーちゃんは、食欲が旺盛になる秋口には、皮の表面に塗ったバターが好きなのか僕の食べているパンを欲しがるようなことはあった。その傾向が死期が近づいてより強くなったような気がする。肉や魚ばかりか野菜まで食べるのだ。かぼちゃを食べるのを見た時にはさすがに驚いた。最期の日もいちこがワッフルの包みを開けた音にそれまでへたりこんでいたのに飛び起きたくらいだ。
去年の春の手術の時は、退院してから何週間も食物を受け付けない状態が続いた。食欲に限っていえば、去年の手術後より死ぬ前のほうが間違いなく旺盛だったのだ。それがプーちゃんにとって、豪徳寺の先生が言っていた「なるべくいい状態」だったことを願うしかない。
部屋で僕が楽器をいじったりしている時に、台所から聞こえたいちこの声に自分が呼ばれたものだと思って「何ー?」と返事をする。
「違うよ、プーちゃんに言ったの」
猫たちと暮らすようになってそんなことが増えた。プーちゃんが死んで、ターちゃんだけになってもそれは変わらない。
いちこに聞いてみた。
「お腹の赤ちゃんに話しかけたりしてる?」
「えーっ、してない」
妊娠出産の手引書などを読むと「妊娠6ヶ月で赤ちゃんの耳は聞こえています。お母さんもお父さんも赤ちゃんに話しかけてあげてください」なんてことが書いてある。しかし、なんだかそんなのはわざとらしくてどうかと思うのだ。そりゃあ両親が喧嘩ばかりしていたら、赤ちゃんに良い影響はないだろう。だけど、猫に話しかけるのがいちこにとって楽しいのなら、それが赤ちゃんにとって悪いわけがない。
いちこは、プーちゃんが死んで3日も経たないうちにひとりになったターちゃんが寂しそうだからとインターネットの里親募集をチェックし始めた。そして、この原稿を書いている今、僕のとなりには今日来たばかりの生後1ヶ月の雄と雌の子猫が気持ち良さそうに並んで寝ている。二匹はまだ乳離れもしていないうちに一緒に捨てられていたのを保護されたということだった。
おなかの赤ちゃんがこの家の主役になる日はまだ遠い。
Posted by:ECD
60年生まれ。ラッパー。本名石田義則。ファイナルジャンキー主催。 96年に、日比谷野外音楽堂で開催された伝説的なHIPHOPイベント「さんぴんCAMP」を主催したジャパニーズヒップホップのオリジネーター。アルコール中毒に悩まされた時期もあったが、今では立ち直り警備員をしながら音楽活動を続けている。『ECDIARY』(レディメイド・インターナショナル)『失点イン・ザ・パーク』(太田出版)などの文筆活動を始め、音楽活動以外でもその才能を発揮している。
植本一子
84年広島県生まれ。写真家。02年、高校生の生活フォトコンテスト受賞。03年、日本写真芸術専門学校在学中に、キャノン写真新世紀で、審査員の荒木経惟氏らから賞賛を受け、優秀賞を受賞する。現在はフリーランスで活動中。












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